他人の給料は誰もが知りたいものだが、実は政府もその動向に強い関心を寄せている。給与所得の変化は景気を敏感に反映するものであり、経済政策を立てる上で欠かせない要素となることから、大規模な調査を行っている。「毎月勤労統計」だ。
調査対象は、全国から選ばれた従業員5人以上の約3万3000の事業所で、賃金や労働時間、雇用の変化などを毎月調査、原則として調査が行われた翌月の末日に、厚生労働省から速報が発表される。速報性が高いことから、重要度の高い経済指標とされ、株式市場などに影響を与えることも少なくない。
調査は、支払われた給与の総額である「現金給与総額」、その内訳として、基本給に残業代を除いた諸手当を加えた「所定内給与」、残業代である「所定外給与」、そして、ボーナスを中心とした「特別給与」がそれぞれ集計され、実額と前年の水準との比較も発表される。また、物価の上昇を考慮した「実質賃金」も併せて公表されている。
給与所得の増加は、企業の経営状態が良くなっていることの証しであり、今後消費が増えることも期待できる。反対に給与が減少していれば、企業経営の悪化、そして、景気の低迷に向けた動きが出ていることを示すものといえる。
中でも、残業代である所定外給与は、企業の仕事の増減が最も敏感に反映されることから、あわせて調査・集計されている「所定外労働時間」とともに、景気の現状と先行きを示すものとして特に注目を集めることになる。
また、これらの調査は、業種ごとのデータも発表されることから、「建設業は好調だが、製造業や不動産業が不調だ」といった分析をすることも可能だ。
毎月勤労統計ではこのほか、労働者の数を、一般労働者とパートタイム労働者に分けて調査していて、完全失業率や有効求人倍率などと並んで、雇用情勢を示すデータを提供してくれる。
2008年5月の速報によると、現金給与総額は前の年の同じ月に比べて0.2%増加したが、前の月の+0.8%に比べて伸び率が縮小した。現金給与総額は、パートタイマーの正社員化などで上昇を見せていたが、5月は所定外労働時間が0.9%減少、これに伴って所定外給与も減少したことが原因と考えられている。
また、見逃してはいけないのが物価の上昇を差し引いた実質賃金だ。5月の実質賃金は前の年同じ月に比べて1.2%減少してしまった。物価の上昇が給与の上昇分を帳消し、事実上の賃金ダウンを引き起こしているのだ。こうした状況が続けば、消費の一段の悪化を引き起こし、景気の悪化の度合いが強まることになるのである。
サラリーマンの懐具合と働きぶりを教えてくれる「毎月勤労統計」。自分の給与と比較しながら、時々覗いてみてはどうだろうか。