日本経済を巨大な旅客機と考えると、国内総生産(GDP)はその高度となり、これが増えていれば、経済成長率がプラスとなって好景気、反対に減少していれば、経済成長率がマイナスで、不景気となる。
旅客機を飛ばしているエンジンに相当するのが、①個人消費支出、②設備投資、③輸出入、④政府支出、の4項目で、この合計がGDPとなる。この中でも、個人消費支出と設備投資は、「景気の両輪」と呼ばれることもあるメインエンジンだ。しかし、設備投資がGDP全体の15%程度を占めるのに対して、個人消費支出は、全体の55%程度を占める圧倒的な規模を持つ。したがって、設備投資が2%増えても、経済成長率は0.3%しか増えないが、個人消費支出が2%増えると、経済成長率は1.1%も増えることになる。
こうしたことから、「機長」である政府にとって、旅客機の高度を上げて景気を良くするためには、個人消費支出を増やすことが、最も効率的ということになる。それでは、個人消費支出を増やすための政策には何があるのか。
私たちが消費を増やすのは、収入が増えた場合だ。したがって、「機長」である政府は、税率というレバーを操作して減税を実施、所得を増やすことで消費拡大を実現しようとする。反対に、消費が増えすぎ、インフレなどの弊害が発生している場合には、増税をして、エンジンの過熱を抑えることもできるのだ。
しかし、減税が個人消費支出の増加に直結するわけではない。バブル崩壊後の深刻な不況期、政府は大規模な減税を行ったが、個人消費支出は一向に増えなかった。将来に不安を感じていた人々は、減税分を貯蓄に回し、消費の拡大には消極的だったのだ。この結果、個人消費支出は増えずに景気は低迷、一方で財政赤字は急増と、日本経済という旅客機の飛行状況は、さらに悪化してしまったのだった。
反対に、増税して所得が減っても、人々が消費の誘惑から逃れられない場合、借金をしてでも消費するという事態が起こることもある。「消費者心理」というメンタルな要素が、個人消費支出では大きな役割を果たしていることから、そのコントロールは容易ではないのである。
また、天候も個人消費支出に大きな影響を与える。猛暑になると、エアコンや夏物衣料、ビールなどが売れ、個人消費支出が増えて景気が良くなる。反対に、暖冬になるとコートの売れ行きが不振、暖房燃料の消費が落ち込み、景気を悪化させることもある。夏は暑いほど、冬は寒いほど個人消費支出が増え、その結果、景気が良くなるというわけだ。
このほか、ワールドカップやオリンピックなどのイベント、皇室の慶事などが、消費支出を引き上げることもある。「ワールドカップの経済効果は2200億円」などという試算が発表されることもあるが、ここでの「経済効果」とは、それによる個人消費支出の増加、ひいては景気の浮揚効果のことを指しているのである。また、薄型テレビなど、画期的な新商品の登場も、個人消費支出を増やす場合があるのだ。
日本経済のメインエンジンである個人消費支出は、景気の動きを大きく左右する最も重要なものだ。しかし、その動きは様々な要因で左右され、「減税すれば消費は増える」という単純な図式は成立しない。このメインエンジンをいかにコントロールするかは、日本経済という旅客機の安定的な飛行に直結するものであり、機長である政府の手腕が問われるものなのである。