旅客機に乗ると、機長から必ず行われるアナウンスだ。飛行状況や天候、到着時刻などの情報が、コンパクトに乗客に伝えられる。乗客にとって、自分が乗っている旅客機の飛行情報は重要だが、席に座っているだけでは、何が起こっているのか、そして今後何が起こるのか分からない。したがって、機長のアナウンスは、重要な情報となるわけだ。
日本経済を大きな旅客機、国民をその乗客と考えると、「月例経済報告」は、機長である政府が行う経済状況のアナウンスに相当する。報告をまとめるのは内閣府で、毎月中旬に閣議の了承を得て、経済財政担当大臣が発表する。
2007年7月の報告を例にとってみよう。月例経済報告はまず、「景気の基調判断」が短い文章で示される。「景気は、生産の一部に弱さが見られるものの、回復している」というのが基調判断だ。日本経済という旅客機が、順調に高度を上げて飛行しているので心配はありませんと、乗客である国民にアナウンスしているわけだ。また、先行きについても、「企業部門の好調さが持続し…、景気回復が見込まれる」と、強気の見通しを示している。
こうした経済情勢の概略を示した「総論」に続き、「各論」が展開される。ここでは、消費や設備投資の動き、生産状況に物価や企業収益など、日本経済の様々な側面についての状況分析が、綿密に行われる。エンジンの出力や、燃料、機内温度など、日本経済という旅客機の飛行データが、詳しく報告されているのだ。
また、月例経済報告では、株価や外国為替相場、アメリカやヨーロッパなど海外の経済情勢、そして原油価格などについても、詳しく分析している。これらは、旅客機を取り巻く気流や気候に相当するもの。ニューヨーク株式市場で株価が急落した場合には、乱気流が発生し、旅客機が大きく揺れる恐れもある。「レーダーには厚い雲が見えます。乱気流で揺れる恐れがありますので、シートベルトを締めてください!」というアナウンスが行われることになる。07年7月の月例経済報告では、「原油価格の動向が、内外経済に与える影響等には留意する必要がある」という注意喚起が行われている。
コックピットからの報告には、「月例経済報告」以外に、副操縦士である日本銀行が発表するものもある。「金融経済月報」だ。こちらは毎月半ば、金融政策を決める金融政策決定会合に合わせて示されるもの。経済の概況を示す「基本的見解」に続き、物価や金融などについて多くのページが割かれていて、日本銀行の金融政策を占うことにも役立つ、重要な報告となっている。
「月例経済報告」、そして「金融経済月報」という2つの報告は、日本経済という旅客機の乗客である私たちにとって、大いに役立つ情報が詰まっている。その内容は、メディアを通じて発表されると同時に、それぞれのホームページで簡単に読むことができるようになっている。
不意の乱気流で思わぬけがを負わないためにも、コックピットからのアナウンスには、聞き耳を立てておきたい。