経済ニュースで、しばしば登場する解説だ。「外需」とは、輸出など海外に向けた経済活動のことで、国内向けを「内需」と呼んで区別している。
日本経済を、(1)消費、(2)設備投資、(3)輸出入、(4)政府支出、の四つのエンジンで飛ぶ巨大な旅客機、その高度を国内総生産(GDP)と考えると、「消費」と「設備投資」が内需、三つ目のエンジンである「輸出入」が外需となる。「外需主導」とは、輸出入というエンジンの出力が増えて機体が上昇、景気が拡大していることを意味するわけだ。
輸出入というエンジンの出力を示すデータが、貿易収支である。輸出入の出力は、輸出と輸入の差、つまり収支によって決まる。輸出が増加すれば、その分だけ景気にはプラスに作用するが、一方で輸入は、海外からモノを購入するわけであり、その分は景気にはマイナスに作用してしまう。つまり、「輸出入」というエンジンは、「輸出というエンジン」と「輸入という逆噴射エンジン」の二つの組み合わせで出来ていて、それが差し引かれた出力が景気に直接影響を与えることになる。
輸出が輸入を上回っている状態が「貿易黒字」、下回っている場合が「貿易赤字」となる。したがって、貿易黒字の場合、旅客機の高度は上昇するが、貿易赤字の場合には、輸出入というエンジンは逆噴射状態になっていて、旅客機の高度を引き下げることになってしまうわけだ。
日本の場合は、恒常的に貿易黒字を計上していることから、輸出入というエンジンは機体の高度を引き上げること、つまり景気拡大に貢献している。ところが、アメリカの貿易収支は常に赤字、輸出入というエンジンは強い逆噴射の状態で、アメリカ経済という旅客機の高度を下げ、景気にマイナスの影響を与えているのである。
輸出入というエンジンの出力を示す貿易収支は、様々な要素が絡み合って決定される。まず、輸出の場合には、輸出先の国の景気が大きな影響を与える。アメリカ向けの輸出が多い日本の場合、アメリカの景気が良くなると輸出が増えて出力アップ、反対に景気が悪くなれば出力は低下する。
一方、輸入の場合には、日本の景気が影響を与える。日本の景気が悪いと、輸入品が思うように売れなくなり、逆噴射が弱まって貿易収支が改善、輸出入というエンジンの出力アップにつながる。反対に、日本の景気が良くなると、輸入が増えて貿易収支が悪化、エンジンの出力も低下し、景気にはマイナスに作用することになる。
また、輸入については、原油価格の動向も大きな影響を与える。輸入量に大きな割合を占める原油価格が上昇すれば、貿易収支が悪化、逆噴射が強まってしまうことになるわけだ。
この他、円相場も貿易収支に大きな影響を与える。円安になると、輸出品の相手国での販売価格が下落、輸出を増やす力となる。この場合、輸入については、輸入品の価格上昇によって逆噴射も強まる。しかし、輸出の比率の高い日本では、円安による輸出の増加が輸入の増加を上回り、貿易収支の黒字が増加、輸出入というエンジンの出力が上がって、景気にはプラスに作用するのだ。
円高の場合はこの逆となり、輸入の減少以上に輸出が減少、貿易収支が悪化して輸出入のエンジンの出力が低下、機体の高度が下がって景気が悪化することになる。
日本経済という旅客機にとって、貿易収支の黒字が増えて、外需である輸出入のエンジンの出力が増加するのは好ましいことだ。ところが、これが度を過ぎると、輸出相手国から反発を受ける場合がある。
日本からの輸出増加は、相手国にとっては輸入の増加、つまり逆噴射が強まって景気を悪化させることになる。したがって、貿易黒字が増えすぎると、「日本は身勝手だ!」と、貿易摩擦に発展する場合が出てくるのだ。日本は主にアメリカとの間で、自動車や鉄鋼などを巡って深刻な貿易摩擦を経験してきた。最近は中国とアメリカの間で、貿易摩擦が激しくなっている。
「外需」の強さを示す貿易収支。黒字が大きければ大きいほど、輸出入というエンジンの出力が上がり、景気にプラスに作用するが、それは同時に相手国の景気を悪化させる。「外需」頼みの景気拡大は、貿易摩擦に発展する危険性があるだけに、貿易収支には微妙なバランス感覚が求められるのである。