タクシーの運転手さんや、飲み屋のママ、デパートの店員さんなどと何気なく交わす会話だ。経済の現場で日々働いている人達が肌で感じる景気は、GDPなどの綿密な統計データよりも敏感で、景気動向を先取りすることが少なくない。そこで、こうした「景気の実感」を集計して数値化し、景気判断に役立てる目的で始められたのが「景気ウォッチャー調査」である。
この調査はその名の通り、景気の動向を肌で感じている人たちを「ウォッチャー」に任命し、その報告を集めて景気の現状と先行きを探ろうとするものだ。毎月25日から月末にかけて調査が行われ、内閣府がこれを集計して翌月の上旬には発表と、高い速報性を持っている。
ウォッチャーは、デパートやコンビニ、家電量販店などの小売業の販売員、高級レストランやスナックの経営者、ホテルや遊園地の従業員にタクシー運転手などのサービス業に従事している人、さらにはハローワークの職員など多種多様で、全国各地に2050人が任命されている。
調査項目は、「景気はどうですか?」という景気の実感を尋ねるもの。景気の現状については、3カ月前に比べて「良くなっている」「やや良くなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」の5段階から選んでもらい、これを「景気の現状判断DI」(Diffusion Index)という指数にまとめて発表している。
この指数は50が中間点の「景気は変わらない」で、50より大きければ大きいほど景気が良く、50よりも小さければ小さいほど景気は良くないという実感が強いことを示している。景気の先行きについても同様の調査をしていて、こちらも50が分岐点となる。
調査結果ではさらに、「紳士服が売れ始めた。景気回復が本格化します」といった、現場ならではのコメントも「景気判断理由集」という形で示される。
景気ウォッチャー調査は、経済企画庁(現内閣府)の長官だった堺屋太一氏の提唱で、2000年1月からスタートした。アイデアマンらしい堺屋氏ならではの調査といえるだろう。
07年9月の調査結果を見てみよう。「景気の現状判断DI」が前月から1.2ポイント低下して42.9と、6カ月連続で分岐点である50を下回った。「景気の先行き判断DI」も0.5ポイント低下して46.0ポイントとなった。景気があまり良くないと、経済の最前線で働いている人の多くが感じていることを示している。
コメントを見てみると、「残暑が続いており、衣料品の売り上げも低調であった」(スーパーの店員)、「季節要因に左右されずフル生産となっている」(一般機械器具製造業)などと書き込まれていて、それぞれの業種ごとの景気状況も垣間見ることができる。
景気ウォッチャー調査は、調査の概要のみならず、「景気判断理由集」も内閣府のホームページから入手できる。「景気はどうですか?」という問いかけに答える、2050人のウォッチャーたちのコメントは、「読み物」としても面白く、ビジネスのヒントにもなる。
「景気ウォッチャー調査」は、世界でも類を見ないユニークな調査だ。景気の先行き、そして経済の現場で何が起こっているかを知る上でも、時々チェックする価値は十分にあるだろう。