これが「人口オーナス」だ。オーナス(onus)は「重荷」、「負担」などという意味で、「生産年齢人口」(15~64歳)が減少する一方、それ以外の「従属人口」(15歳未満・65歳以上)が急増する結果、生産年齢人口の人々が過大な負担を負い、国力が低下する状態を示す言葉だ。少子高齢化で人口構成が「逆ピラミッド型」になると、働き手が減少して生産力が低下する。それと同時に、若い現役世代が、引退した高齢者の生活を支えることになり、年金などの社会保障制度が行き詰まったり、政府の財政赤字が増えたりと、様々な弊害が生まれてくる。年齢層が高く、若い選手の負担が過剰になった友人のサッカーチーム同様、人口オーナスによって国の経済力は低下、国際競争の場で劣勢に立たされてしまうのだ。
一方、新興国が享受するのが「人口ボーナス」だ。高齢者よりも若者が多い「ピラミッド型」の人口構成を持ち、「生産年齢人口」が「従属人口」を大きく上回っていることから、若くて豊富な労働力が生産力を高める。稼いだお金を社会保障などではなく、経済成長のための投資に回すことが可能になることから、成長力を高められることにもなる。こうした優位性が人口ボーナスであり、若くて厚い選手層を持つチームが試合に勝つのと同じように、国際競争の中で強さを発揮するというわけだ。
太平洋戦争の敗北で壊滅的な打撃を受けた日本だが、第1次ベビーブームで若年層の人口が急増、後に「団塊の世代」と呼ばれる若くて優秀な人材が、高度経済成長を生み出した。彼らがもたらした人口ボーナスによって、日本はGDP(国内総生産)という経済の世界ランキングで2位の強豪チームとなった。
しかし、「団塊の世代」が現役を引退するにつれて「ボーナス」は「オーナス」となり日本の国力は急低下。GDPランク2位の座を中国に奪われてしまった。一方、日本を追い抜いた中国の原動力こそが人口ボーナスであり、安くて豊富な若い労働力によって経済力を一気に高めることに成功したのだ。インドやベトナム、ミャンマーなどの新興国が急速に経済力を高めている背景にも、人口ボーナスの恩恵がある。
「若い選手を入れないと、とても勝てない…」と話す友人だが、日本はどうすべきか? 少子化を解消するためには長い時間がかかるし、働き手を増やすための大量の移民を受け入れることなども非現実的だ。こうした中、将来性のない国内市場に見切りをつけ、海外市場に活路を見いだす企業も続出している。高齢化が進む中で、若くて実力のある選手がチームを離れてしまえば、日本の将来は絶望的となる。
人口オーナスが、長引くデフレ不況の根本的な原因だと指摘するエコノミストもいる。人口オーナスを解消する政策を断行しなければ、日本経済の復権は不可能だと言わざるを得ない。