しかし、プロデューサーという仕事が確立されたのは、比較的最近のこと。それまでは、監督が企画から予算管理、そして、シナリオを自分で書く場合も多かった。
経済財政諮問会議は、経済政策のプロデューサーだ。明文化されているその機能は、「内閣総理大臣の諮問に応じて、経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本方針、予算編成の基本方針、その他の経済政策に関する重要事項についての調査審議」というもの。諮問とは、「意見を求める」という意味で、内閣総理大臣の求めに応じて、基本的な経済政策を企画立案するのがその役割となる。
しかし、経済財政諮問会議は、あくまで基本方針を示すだけ。政策の詳細を固めて立法化するのは与党で(現在は自民党が主導し、公明党の了解を得る)、それを実行に移すのが官僚組織となる。つまり、経済財政諮問会議は、あくまでプロデューサーであり、その指示に従って、与党や官僚が具体的な脚本を書き、ドラマの演出を行うというわけなのだ。
構成メンバーは、内閣総理大臣を座長に、財務、経済産業、経済財政担当などの経済閣僚と、財界の大物経営者など、最大で10人(総理を含めると11人)。民間の意見をできるだけ反映させるため、メンバーの4割以上を民間人にするように定められている。
経済財政諮問会議は、毎年6月に「骨太の方針」を打ち出す。正式名称は「経済財政改革の基本方針」(2007年版)で、経済政策の大枠を明確に示すと同時に、翌年度の予算編成についての基本的な方針もあわせて示されることが多い。
経済財政諮問会議は、01年1月、中央省庁の再編に伴って発足した。当初は、いくつもある「諮問会議」の一つとして、目立った存在ではなかったが、小泉純一郎元総理がその機能を一気に強化する。小泉元総理は、自らが推し進める「構造改革」というドラマのプロデューサー役を、経済財政諮問会議に与えたのであった。
これに対して、強い拒否反応を示したのが、与党と官僚、とりわけ財務省であった。従来、予算編成は財務省が大枠を決定し、与党と最終調整する形で行われてきた。与党が「脚本家」、財務省が「演出家」となって、好き勝手に「ドラマ」を制作してきたのである。そこに、経済財政諮問会議というプロデューサーが突然登場し、「俺の指示に従え!」と言い出したわけだ。面白くないのは当然と言えよう。
こうした対立が一番目立つのが税制改正だ。従来、税制改正は、政府と自民党がそれぞれ組織する「税制調査会」での議論で決められてきた。実際には自民党の税制調査会の力が極めて強く、意見が対立した場合には、政府の税制調査会が従うという「党高政低」と呼ばれる構図ができあがっていた。
この税制改正の場にも、経済財政諮問会議が参入してきた。目的は、税制改正の主導権を官邸に取り戻すこと。税制改正は経済財政諮問会議と政府の税制調査会という二つの諮問機関と、自民党の税制調査会との三つどもえになっているのである。
ドラマ制作では、プロデューサーの存在はなくてはならないものだ。しかし、経済財政諮問会議というプロデューサーについては、小泉元総理、そしてその後継者である安倍晋三前総理の退陣で、後ろ盾を失ってしまった。こうしたことから、与党という「脚本家」や財務省という「演出家」から、「プロデューサー」を追い出そうという動きが広がっている。
日本経済という「ドラマ」のエンドロールに、プロデューサーとして名前が流されている経済財政諮問会議だが、いつまでそれが続くのか…。その地位をめぐる闘いは、「ドラマ」の本編よりドラマチックと言えそうだ。