国債にも「プライマリー・ディーラー」という同様の制度がある。正式名称は「国債市場特別参加者」で、毎月莫大な額面が発行されている国債が売れ残らないよう、取引業者の中から、中核となる財務省公認の銀行や証券会社(プライマリー・ディーラー)を選定して、販売の円滑化を目指している。日本では、2004年にアメリカの制度を参考にして導入され、16年5月末の時点で、野村や大和、ゴールドマン・サックスなどの国内外の証券会社19社に、三菱東京UFJ、みずほ、三井住友の3銀行を加えた22社が名を連ねていた。
プライマリー・ディーラーは、他の買い手が参加できない非競争入札や、流動性が乏しい特定銘柄への追加入札などに参加できるほか、国債市場について話し合う「国債市場特別参加者会合」に出席して意見を述べることもできる。販売元である政府(財務省)と密接な関係を築くことで、「限定品」の販売や、特別な情報の入手などの特典が与えられている。その一方でプライマリー・ディーラーには、「すべての国債の入札において発行予定額の4%以上に相当する額を応札」などの義務が課せられる。販売代理店である以上、最低限の仕入れをすることが求められるのだ。
国債の販売で重要な役割を担っているプライマリー・ディーラーだが、国債はそれ以外の業者でも取り扱いができる。国債の販売は原則として入札で行われていて、銀行や証券会社、生命保険会社など246社が参加資格を持っている(16年5月現在)。プライマリー・ディーラーは、これらの中で特別な地位にある業者だが、他の業者も国債を仕入れて販売することが可能なのだ。
人気のブランド品であれば、販売代理店契約を結ぶことでメリットが期待できる。しかし、人気のない商品の場合には、売れ残りを抱えて店の経営が悪化する恐れがあるのだから、わざわざ販売代理店になる必要もない。このように考えて、16年6月にプライマリー・ディーラーの資格返上を決めたのが三菱東京UFJ銀行だ。国債は現在、日本銀行の金利政策の影響で大半がマイナス金利になっていて、保有しているだけで損失が出てしまう。こうした「不良品」を、販売代理店の契約を交わしてまで仕入れる必要はないというわけだ。
三菱東京UFJ銀行のプライマリー・ディーラー資格返上は、経営を圧迫している日銀のマイナス金利政策に対し、メガバンクが初めて反旗を翻したとも言えるが、意外にも、「国債が売れ残る!」という不安はそれほど市場に広がらなかった。国債市場は、日銀が量的・質的緩和策のために巨額の国債購入を続けていて、品薄状態にある。大手の販売代理店が撤退しても、「定番商品」である国債販売への影響は軽微で、販売元の財務省も冷静を装っているのである。しかし、販売代理店が逃げ出す「不良品」が平気で作られ、その多くを日銀が購入しているという現在の国債市場が極めて不健全であることは言うまでもないだろう。