「オラたちの取り分を増やせ!」と迫る海女たちと同じ要望を出しているのが日本の経済界だ。「法人税」が高すぎるとして、引き下げを要求しているのである。
法人税は法人(企業)の所得に対して課税する「国税」で、14年4月現在の基本税率は25.5%。日本政府という「漁協」が、法人という「海女さん」から、ウニの売り上げのおよそ4分の1を税金として徴収していることになる。
しかし、法人に対する税金はこれだけではない。国が徴収する法人税に加えて、地方自治体が徴収する「法人事業税」や「法人道府県民税」、「地方法人特別税」などがある。「海女さん」という法人は、国という「漁協」に加えて、地方自治体という「観光協会」からも税金を徴収されている。これらを合算した法人に対する実質的な税率(法定実効税率)は35.64%(14年4月時点、東京都の場合)、日本企業という「海女さん」は、ウニ1個を500円で売ると、国と地方自治体に税金として178円取られ、手取りは322円になってしまうのだ。
法人に課せられる法定実効税率に対しては、「国際的に見ても高すぎる!」という不満が寄せられている。中国25%、韓国24.2%、シンガポール17%(13年1月時点)など、日本の競争相手であるアジアの国々の法定実効税率は相対的に低く、これらの国々の企業と競争を展開している日本企業にとっては大きなハンディとなる。
こうしたことから日本企業の中には、法人税の低い国に生産拠点を移転させる動きが続いている。「どうせウニを獲るなら、手取りの多い他国の海岸で獲ったほうが得だ」となり、日本から海女さんがいなくなる「産業の空洞化」が進行しているのだ。
また、法人税を巡る議論の中には、法人税率を引き下げた方が、結果的に税収増につながるとの意見もある。引き下げによって企業の競争力が向上し、生産や販売が増加することで、減税分を補って余りある税収増をもたらすというのだ。「法人税のパラドックス(逆説)」と呼ばれている考え方で、法人税率を引き下げたイギリスで、経済成長率が上昇、結果的に税収が増えたという例もある。取り分を増やすことで海女さんたちが「やる気」を出し、より多くのウニを獲ってきて、漁協の収入が増えるという理屈だ。
14年の時点で安倍晋三首相は、日本経済を活性化させ、同時に税収も増えるとして法人税の引き下げを模索しているが、財務省は難色を示している。「法人税のパラドックス」が実現されるかどうかの保証はなく、安易な減税は財政を更に圧迫しかねないからだ。
さらに、実際に法人税を納めている日本企業は3割にすぎない。なぜなら、法人税は企業の利益に課税されることから、赤字企業には課税されない。つまり、日本の企業の7割は赤字で法人税はゼロ、頑張って黒字を出している企業だけが支払うという矛盾も指摘されている。「オラたちの取り分を増やせ!」という要望を、どこまで受け入れるべきか? 法人税の改革論議が熱を帯びている。