同じことが日本の国債でも起こっている。人気が上昇して、「定価」を超える価格で売り出されているのだ。
新たに発行される国債は、大口投資家を対象とした入札によって購入者が決められている。2016年4月5日に行われた、満期10年の新発国債(発行総額2兆4000億円)の入札結果を見てみよう。額面価格100円、表面利率年0.1%の国債の入札は、平均落札価格が101円70銭と、額面価格を上回る人気となった。
この入札結果は、「10年国債 最低更新 落札利回りマイナス0.069%」(16年4月6日朝日新聞朝刊)と、価格ではなく金利水準で報じられた。国債は国が発行する売買可能な借用証書で、その人気は金利に反映される。人気が上昇すれば、より低い金利でも購入してもらえるし、人気が低下すれば、より高い金利を付けて売る必要が出てくる。こうしたことから、国債の取引は、価格ではなく金利水準で示されている。
落札価格から利回りを算出してみよう。利回りとは、投資に対する、利子も含めた収益のパーセンテージのこと。今回売り出された国債を100円購入すると、10年後の償還日までに利息1円(=100円×0.1%×10年)と額面価格を合わせた101円を受け取る。しかし、購入時に101円70銭を支払っていることから、最終的には70銭の損となる。パーセンテージに直せば10年間で(70銭÷101円70銭≒)0.69%のマイナスとなり、これを最終利回りと言う。落札利回りは、最終利回りを償還年数で割った1年単位の数値なので、今回は0.069%マイナスという計算になる。
投資家が損をしてまで国債を購入するのは、落札利回りよりさらに大きなマイナス幅、つまり101円70銭よりも高値で転売できると考えているからだ。転売先は量的・質的金融緩和政策を実施中の日本銀行。日銀は民間銀行が保有している国債を購入して、その代金を支払うという方法で、市中に大量のマネーを供給しようとしていて、その目標は年間80兆円と巨額だ。このため日銀は、落札利回りの0.069%以上のマイナス幅で購入せざるを得ないと考えられている。国債には日銀という「熱烈なファン」がいて、法外な値段でも買ってくれることから、落札利回りがマイナスになっても、売れ続けているわけだ。
落札利回りがマイナスになったことで、政府は借金をしたにもかかわらず、投資家から差益を受け取ることができる。今回は発行総額2兆4000億円で、100円あたり70銭の利益を得られるので(2兆4000億円÷100円×70銭=)168億円。一方で投資家は、さらに大きなマイナス幅で日銀に転売することで利ざやを稼ぐことができる。そのしわ寄せは最後に国債を買い取る日銀にゆくことになり、中央銀行としての信用力が低下し、金融システムの不安定化を招くと懸念されているのだ。
知人にチケットを転売できなかった場合を聞くと、「オークションで叩き売る! 今の人気は一時的で、実力はゼロだから……」という答えが返ってきたが、状況は国債も同じだ。膨大な財政赤字を抱えている日本の国債が、落札利回りがマイナスになるほどの人気を集めているのは、転売を目的とした一種の「バブル」が起きているため。転売が困難になり、国債の本当の実力に投資家たちが気づいたとき、国債の投げ売りが始まって、未曽有(みぞう)の混乱が起こるだろう。国債人気のバロメーターである落札利回りのマイナス表示は、国債バブルとその崩壊を予感させるものなのである。