「上げ潮路線」も、「出世払い」と同じ考え方に基づいている。破綻寸前となっている日本の財政再建のシナリオの一つで、日本経済の構造改革を進めれば、高い経済成長が達成され、企業の利益や人々の所得も増加、税収も自動的に増えて、財政赤字が縮小していくというものだ。日本経済を「出世」させて高収入を実現し、たくさん税金を払ってもらって国の借金を減らそうというわけだ。
「上げ潮路線」は、自民党の中川秀直氏が中心となって主張している政策だ。中川氏は、小泉純一郎政権を引き継いだ第1次安倍晋三内閣で自由民主党の幹事長に就任すると、「上げ潮派」とされる大田弘子氏を経済財政担当大臣に登用するなど、その実践に着手した。
同じような政策を実施した例が、アメリカにある。
1981年に第40代大統領に就任したロナルド・レーガンは、「レーガノミックス」とよばれる一連の経済政策の中で、厳しい財政事情にもかかわらず大幅な減税を実施した。
税率が高いと、「働いても税金を取られるだけだ」と勤労意欲が失われて、一層税収が減ってしまう。反対に税率を下げると、「働いた分だけ収入が増える」と、人々が一生懸命働き始めて高い経済成長が達成され、その結果として、税収が増えると考えたのだ。しかしこの政策は失敗、税収は減税分だけ落ち込み、アメリカの財政赤字は深刻さを増す結果となった。
日本でも状況は同じだった。構造改革は思うように進まず、経済成長率は微増で、税収は思うように増えなかった。日本経済はなかなか「上げ潮」に乗れず、借金である財政赤字は拡大を続けたのだ。
そこで、安倍総理の辞任を受けて誕生した福田康夫内閣では、方針転換が試みられた。「出世」を待っていては、借金は永遠に返せず日本の国家財政は破綻する。そこで、消費税の引き上げも視野に入れた「財政再建重視派」の与謝野馨氏や谷垣禎一氏が実権を握り、「上げ潮路線」は縮小を余儀なくされたのだった。
しかし、「出世払い」を断れば、弁護士になって高い収入を得るという可能性を奪うことにもなる。財政再建を優先して税率をアップさせれば、景気が悪くなり、ますます税収が減少するという、負のスパイラルに陥ることも十分にあり得るのだ。
弁護士になる可能性に賭けて、「出世払い」を認め続けるのか、受験を止めさせて、借金返済を迫るべきなのか…。財政再建のシナリオの一つである「上げ潮路線」をめぐる議論は、まだまだ続くことになりそうだ。