こんな家計簿を見せられたら、誰でも絶望的な気分になってしまうだろう。収入以上の支出を続け、借金が雪だるま式に増えていくという、家計破たんへの典型的な道のりだが、単位を「万」から「兆」に切り替えた時、この家計は日本の国家財政となる。
2007年度の当初予算では、57兆5000億円の歳入に対して、支出は一般歳出の47兆円と地方交付税の14兆9000億円の合計61兆9000億円で、収支は4兆4000億円の赤字となる。一方で、借金である国債の残高が547兆円で、その返済と利払いである国債費は21兆円に達し、結局新たに25兆4000億円の国債を発行、借金が増え続けている状況なのだ。
危機的な財政を立て直すため、政府が最初の目標としているのが、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡だ。プライマリーバランスはその名の通り、財政の基本的な部分の収支で、国債に関連した歳入や歳出を除き、税収による収入から、社会保障や公共事業などの支出を差し引いたものだ。冒頭の家計簿の場合、毎月の収入と支出の差である赤字の4万4000円が、そして、07年度の当初予算では、税収などの歳入から一般歳出と地方交付税を差し引いた4兆4000億円の赤字が、プライマリーバランスとなる。
巨額の赤字となっているプライマリーバランスだが、黒字の時期もあった。1987年度から92年度までの間は黒字で、91年度には8兆8000億円もの黒字となり、90年度からの3年間は、赤字国債の新規発行もゼロとなっていた。バブル景気によって税収が大幅に増える一方で、景気が良かったことから、公共事業を増やすといった景気刺激策も必要がなかったためだ。
ところが、その後のバブル崩壊で状況は一変した。景気の悪化に加えて、景気刺激のために減税を実施したことから歳入は激減、一方で景気対策のために公共事業などの支出が急増、プライマリーバランスは赤字に転落し、99年度には18兆3000億円まで赤字幅が拡大してしまったのだ。
政府は財政再建のために、2010年度までに「プライマリーバランスの均衡」、つまり、歳出と歳入の差をゼロにする目標を掲げている。しかし、その道は実に険しい。プライマリーバランスを均衡させるためには、歳出の削減と歳入の増加の二つの方法しかない。即効性があるのは歳出の削減だ。しかし、無駄な支出は一向に減らず、「地方の切り捨てだ!」といった声に、公共事業の削減も思うに任せないのが現状だ。
一方、歳入を増やすには、増税が手っ取り早い。政府は、プライマリーバランスの均衡には、消費税を始めとした増税が不可欠だと考えている。しかし、国民の反発が必至な上に、増税によって消費が減少、景気が悪化して企業からの税収が減るというマイナス効果が生じる恐れも出てくるのである。
長く険しいプライマリーバランスの均衡への道だが、それは財政再建に向けた第一歩に過ぎない。プライマリーバランスが均衡すれば、借金の増加に歯止めをかけることはできる。しかし、すでにある借金の利息は増え続け、もちろん、元本の返済も進まない。財政再建のためには、プライマリーバランスを黒字化させ、まずは利息を、そして、少しずつ元本を返していく必要があるのだ。しかし、月収57万円で、ぎりぎりの生活を続けている家計を更にやり繰りし、547万円もの借金を返すというのは、あまりに遠い道のりと言わざるを得ないのである。
「プライマリーバランス」は、国の財政の健全性を示す重要な道標だ。そこから大きく離れ、借金を重ねてきた日本の財政は、危機的な状況にある。今こそ徹底した歳出削減を断行、財政再建の「一里塚」であるプライマリーバランスの均衡に向けて、歩みを進める必要があるのだ。