毎年3月、私は両親に対して、進級に伴うお小遣いの値上げ交渉を申し込んでいた。好きな本も買いたいし、友達と遊ぶにもお金がいる。いろいろな理由を付けて大幅な増額を要求するのだが、「家計が苦しい」ことを理由に、増額要求は大幅に削られ、現状維持も少なくなかった。
各省庁が行う予算の「概算要求」は、財務省を相手とした「お小遣い交渉」だ。
各省庁が、次の年度に必要な予算額を財務省に提出、これを財務省が査定し、予算が確定していく。各省庁が「子ども」で、お財布を握っている財務省という「両親」に対して、来年度はこれだけの「お小遣い」が必要だと、訴えるわけである。
「概算要求」は例年、8月末までに各省庁が財務省に提出することになっている。各省庁にとって、予算は多ければ多いほどよいことから、様々な理由を付けて、過大な要求をする場合が少なくない。一方で、国家財政は膨大な借金を抱えて破綻寸前の状態にあり、そうした要求に応じることは不可能だ。
そこで、安易な予算要求を避けるために、「概算要求基準」が示される。概算要求が行われる1カ月ほど前に、予算編成の基本的な考え方に加えて、予算の限度額や重点分野などが具体的に示されるのだ。正式名称は「予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」と長いことから、「概算要求基準」、あるいは、特に予算の限度額(=天井)が重視されることから、「シーリング」とも呼ばれている。
2008年度の「概算要求基準」は、厳しい財政事情を踏まえた上で「最大限の歳出削減を行う」という基本方針の下、総額は47兆3000億円と前年度比ほぼ横ばい、公共事業費の前年比3%減額などの具体的な数字が盛り込まれた。
子どもが要求する前に、「家計が苦しいので、お小遣いを減らします」と、親の姿勢を示したというわけである。
しかし、これであっさりと引き下がる子どもたちではない。2008年度の概算要求の総額は50兆5000億円、シーリングを3兆2000億円も上回っている。各省庁は、「この公共事業は、地方の格差是正のために必要」などと、様々な理由を付けて、予算というお小遣いの増額を求めたのだった。
本当に必要な予算なのか…。財務省は概算要求を受けて、どこまで要求を認めるかを決める査定に入り、12月20日をメドに「財務省原案」をまとめる。その後、要求が却下されたものについて「復活折衝」が行われた上で、「政府案」が決定される。
しかし、これで終わりではない。政府案は国会に提出され、その審議を経て成立後に実行されるという、長い道のりをたどることになる。
「お小遣いをたくさん欲しい!」と、各省庁が財務省に訴える概算要求。無駄を省き、必要なものにきちんと予算配分できるのか…。「概算要求」は、「概算要求基準」の策定と合わせて、長い予算編成作業の第一歩なのである。