「財務省原案」は、各省庁が8月末に提出した「概算要求」を査定し、認められた内容を取りまとめたものだ。
査定を行うのは主計局。その権限は非常に強く、各省庁の担当者を呼んで、「本当に必要なの? こんな理由じゃ予算はつけられないよ」と、厳しく査定を進めていく。
その様子は、子どもたちのお小遣い交渉に似ている。「もう少し上げて!」とねだる子どもが各省庁で、「本当に必要なの? 我が家は借金だらけだから無理だよ」と、突っぱねる親が財務省というわけだ。
「お小遣い交渉」の結果が「財務省原案」であり、これを各省庁に内示するのが12月20日なのだ。
長く激しい交渉と査定の末に取りまとめられた財務省原案の内容は膨大だ。
まず、予算の全体像が示される。社会保障費や公共事業費などの歳出について、どこに重点を置いて予算を配分したかが示される。一方、歳入についてはその見込額と、借金である国債の発行予定額などが示され、財政事情の厳しさが強調される。
全体像に続いて、各省庁別に認められた予算項目が並ぶ。その資料は電話帳ほどの厚さになり、記者たちは数時間に及ぶ説明を受けることになる。この説明は徹夜になることもあり、記者たちは財務省に缶詰め状態、クリスマスどころではなくなるのだ。
こうして記者たちが懸命に取材した財務省原案は、「来年度の予算はこうなる」と、翌日のテレビや新聞で大きく報じられることになる。
しかし、まだまだ取材は続く。財務省原案で予算案の大枠は決定されるが、交渉の余地は残されている。「復活折衝」だ。親にダメだと言われてもなお、「お小遣い上げて!」と子どもたちが食い下がるというわけだ。
復活折衝は、局長級による「事務折衝」、それでも決着がつかない場合には、大臣同士が直接交渉を行う「大臣折衝」で、最終的な調整が行われる。
これによって「財務省原案」は確定し、「政府案」として閣議決定される。これが12月24日。記者たちは、このプロセスも取材することになるのである。
記者たちからクリスマスを奪う予算編成だが、それが難航する理由の一つに、政治の介入がある。各省庁と財務省との交渉に、政治家が介入してくるのだ。「私の選挙区にもっと公共事業が欲しい。絶対に予算を認めて欲しい」という具合だ。子どもと親のお小遣い交渉に、おじいさんが「上げてやったらいいじゃないか」と、乱入してくるというわけなのだ。
長く激しい交渉の末、「財務省原案」から「政府案」になった予算案だが、これで終わりではない。政府案は翌年1月、国会で審議入りとなる。政府案は衆参両院での激しい議論の後、その議決を得ることでようやく成立し、実行に移されるのだ。
テレビや新聞で大きく取り上げられる「財務省原案」のニュースは、ジングルベルが流れる中で、記者たちが懸命に取材した努力の結晶だ。しかし、それは長い予算編成の通過点に過ぎず、記者たちの取材は、桜の季節まで続くのである。