友人と遊ばず、家の中にこもってしまう…。これが「保護貿易」だ。国家を「家」と考えると、貿易はお互いの家を訪問し合うこと、輸出は友人宅に遊び行くことで、輸入は友人を自宅に招くこととなる。保護貿易とは、自国の産業を保護するために輸入を制限すること、つまり友人の訪問を拒否することなのだ。
輸入品が増えると、国内で生産された商品が売れなくなる。これによって、景気が悪化し失業者が増える恐れが出てくる。友人がたくさん家にやってくることで、家族の居場所がなくなってしまうというわけだ。そこで、輸入を制限して国内産業を守ろうという保護貿易の動きが出てくるのだ。
保護貿易を実行するには、様々な方法がある。関税を利用するのがその一つだ。輸入製品に高い関税をかけて販売価格を上昇させ、国内製品を有利にする。遊びに来た友人に高額の「入場料」を要求して、入りにくくしてしまうというわけだ。
また、輸入に際して、過大な条件をつける場合もある。自動車を輸入する場合、国産車に比べてより高い安全基準を義務づけたりするもので、非関税障壁とも呼ばれている。遊びに来た友人に、「服が汚れている」と文句をつけて、家に入れないというわけだ。
最も直接的なものが輸入制限で、自国製品以外は購入しないと、輸入製品を門前払いしてしまうのだ。「あなたとは遊びません」と、玄関の扉を閉ざしてしまうというわけである。
こうした状況になると、貿易の相手国が報復行動に出る恐れがある。「君が家に入れてくれないなら、僕も家に入れないよ」と、保護貿易が一気に拡大してしまうのだ。これは世界経済に極めて深刻な打撃を与えることになる。
自由な貿易は競争を促進し、生産性も向上する。各国の国民は、より良い製品を、より低価格で手にすることができ、それぞれの国の特性を生かした国際分業も可能となる。これが、世界経済全体の発展をもたらしてきた。ところが保護貿易が広がると、競争は失われて生産性も低下、消費者の利益も失われる。閉塞状況となった世界経済は縮小し、出口のない不況に覆われることになるのだ。
これが現実になったのが、大恐慌の嵐が吹き荒れた1930年代の世界経済だった。33年、アメリカは自国の産業を保護するために、公共事業などで国産品を優先的に購入する法律を制定した。これに対して各国政府が報復、世界経済は保護主義に包まれ、景気の悪化は一段と深刻になった。「友人関係」が崩壊し、「敵対関係」となったことが、第二次世界大戦を引き起こした一因とされているのである。
現在の世界経済で、その悪夢がよみがえりつつある。「バイ・アメリカン条項」だ。2009年2月、アメリカのオバマ大統領の署名で成立した景気対策法に盛り込まれた条項で、その名の通り、公共事業で購入(buy)する鉄鋼製品などを、アメリカ製(American)とすることを義務づけている。各国は強い警戒感を示しているが、景気悪化が深刻化する中、こうした動きの拡大する恐れが現実味を帯びているのだ。
「山口さんちのツトム君」の3番の歌詞では、元気になったツトム君がまた友達と遊ぶようになるが、世界経済は、保護貿易を回避し、友人関係を維持できるのか…。世界は今、大きな岐路に立たされている。