こうした状況が国家レベルで起きているのが「通貨危機」だ。通貨危機は、ある国から資金が大量に流出して外国為替相場が暴落、経済が大混乱に陥ることだ。国家というお店から資金というお客が逃げ出し、破綻の瀬戸際に追い込まれるというわけだ。
通貨危機は、新興国で発生することが多い。経済基盤を拡充するためには巨額の投資資金が必要だ。しかし、新興国の資金は十分ではなく、先進国に比べて金利水準も高い。そこで新興国の政府は、海外からの投資、つまり「外資」を積極的に導入しようとする。外資にとっても、金利が高く、成長も期待できる新興国への投資は魅力的だ。そこで、ヘッジファンドなどの投機資金が、債券や株式を大量に購入、これによって新興国の経済は活況を呈することになる。外国人でにぎわっていたクラブのように、国全体が熱狂に包まれることになるのだ。
しかし、新興国の経済は、インフレが発生したり貿易赤字が急増したりと不安定で、クーデターなど政情不安に陥ることも少なくない。外資はこうしたリスクを承知の上で投資をしていることから、少しでも不安な要素が出てくると、即座に資金を引き揚げてしまう。クラブで大騒ぎしていても、非常口はしっかり確認しているのだ。
外資が急激に流出すると、国内は深刻な資金不足に陥り金利が急上昇、資金繰りに行き詰まる企業や銀行が続出する。同時に、外資が引き揚げられる際には、新興国の通貨を売って、ドルやユーロなどの自国通貨を買う取引が大量に行われる。これによって新興国の為替相場は暴落、通貨危機へと発展するのだ。
また、新興国には、自国通貨より金利の安いドルなどの外貨建てで借金をしている企業も多い。この場合、自国通貨が暴落すると、その分だけ借金の返済額が増える。自国通貨が50%下落すれば、外貨建ての借金の返済額は50%増えてしまうのだ。こうした外貨建ての借金は企業だけではなく、国家として行っている場合もあり、国家自身が借金返済不能となって、破産状態に追い込まれることもあるのだ。
世界経済はこれまで、幾度となく通貨危機を経験してきた。1997年、タイの通貨バーツの暴落に端を発した通貨危機は、インドネシアや韓国などを巻き込んだ「アジア通貨危機」へと発展した。翌98年にはロシア政府が国や民間の借金返済の停止を発表したことから「ロシア通貨危機」が発生、通貨ルーブルは1カ月で230%も暴落、これに巻き込まれた巨大ヘッジファンドのLTCMが破綻に追いやられた。火事の起きたクラブから脱出を試みたものの、暴落が早すぎて間に合わなかったのだ。
通貨危機は、外資の側に原因がある場合もある。2008年に始まったアメリカ発の世界的な金融危機では、ヘッジファンドなどの外資が自国内の株式暴落などで巨額の損失を計上、海外の投資を引き揚げざるを得なくなった。これによって、ハンガリーやアイスランド、ウクライナなどで通貨危機が発生、経済が大混乱に陥った。
外資の流出によって通貨危機に見舞われた国では、国民、そして政府も大きな打撃を受ける。それは、外国人客が去り、閉店寸前に追い込まれたクラブの姿そのものなのである。