企業が市場に新規参入する場合、消費者を集めるために、採算を無視した低価格や、特別なおまけを付けて売り込むことは、広く一般的に行われている。
安いのは消費者にとってありがたいことだが、それが余りに極端な場合には、独占禁止法に基づいて、公正取引委員会が、不当廉売だとして「待った」をかけることがある。
極端な値引きで競争相手を潰して市場を独占、消費者の選択肢を奪った後は、反対に不当な値上げをして利益をあげる、といった事態に発展する恐れがあるからだ。当初は安売りで喜んでいた消費者が、最終的には不利益を被ることになりかねないというわけだ。
しかし、「不当廉売」と「企業努力による値下げ」の境界線はあいまいで、企業側と対立を引き起こすことも少なくない。消費者から、「何で安売りを止めさせるのか!」と非難の声が上がったりもする。
この不当廉売が国家間の貿易で発生した場合が、「ダンピング」となる。
安くて品質の良い商品が大量に輸入されることで、同じものを生産している国内企業が打撃を受け、市場が外国製品に独占されてしまう場合があるのだ。国内の雇用の場も奪うことから、貿易のルールを決めているWTO(世界貿易機関)でも、対抗措置を認めている。
輸入国側が「ダンピングの疑いがある」とWTOに提訴し、審査の結果ダンピングと認められれば、対抗策である「アンチ(反)ダンピング措置」の発動が認められることになる。最も一般的なのは、輸入する際に高い関税をかける「アンチダンピング関税」で、これによって、輸入品の販売価格を引き上げ、価格競争力を奪うのである。
しかし、国内での不当廉売と同様、どこまでが輸出国の努力による低価格で、どこからがダンピングなのかという判断基準は明確ではない。
国内産業を保護するために、政府が「アンチダンピング措置」を乱発、輸出国との間に深刻な対立を生んできた。その典型が、日本の鉄鋼製品を巡るアメリカとの対立。安価で品質の良い日本の鉄鋼製品に対して、アメリカ政府はダンピングを主張し、激しい貿易摩擦に発展したのだった。
現在は中国製品がダンピングの対象に上ることが多い。圧倒的な生産量と低価格で世界の市場を席巻している中国製品。余りの低価格に危機感を強めるアメリカやEUが、「ダンピングだ!」とWTOに提訴するケースが急速に増えているのである。
どこまでが低価格戦略で、どこからがダンピングなのか…。世界経済は今、中国が仕掛けている世界規模の「大安売り」が「ダンピング」なのかどうかを巡って、激しい攻防が展開されているのである。