金融の分野でもソブリンの名を冠したものがある。「ソブリン債」である。ソブリン債は政府や政府機関が発行している債券の総称だ。政府が発行する「国債」がその代表的なものであり、政府が支払いを保証している「政府保証債」も、ソブリン債に含まれる。
債券とは売買可能な「借用証書」で、投資家や個人などに販売して資金を集める一方で、利息を支払い、期限が来れば元本を返済(償還)する。企業が発行するものが「社債」、金融機関が発行する「金融債」、地方自治体が発行する「地方債」など、様々な種類がある。
ソブリン債は、政府が発行したり、支払いを保証したりしていることから、債券の中でもとりわけ高い信用力を持っている。社債の場合、企業が破綻すれば償還されずに、紙くずになる恐れがあるが、ソブリン債の場合、政府が借金を踏み倒すことは考えにくいことから、投資家も安心して購入できるが、その分金利が低く設定されるなど、条件は劣っている。通常の債券が「大衆車」なら、ソブリン債は「超高級車」で、安全な分だけ、金利という「燃費」も良くないというわけである。
しかし、ソブリン債の信頼も絶対ではない。1998年にはロシア国債が、2002年にはアルゼンチン国債が、それぞれ元本の返済ができなくなる債務不履行(デフォルト)となり、投資家が大きな損失をこうむる事態が発生している。ソブリン債が債務不履行に陥るリスクが「ソブリンリスク」。安全だと思われているだけに、ソブリン債の信用不安の影響は大きく、ソブリンリスクが大きくなると、世界経済全体に深刻な打撃を与える恐れがある。
2010年1月に始まったギリシャ国債の不安も、ソブリンリスクが現実になったものである。ギリシャ政府が国家の財政状況を偽っていたことが発覚、「債務不履行になるのでは?」という不安が一気に高まった。高級車だと思っていた車が、実はポンコツ車だったわけで、誰も乗ろうとしなくなったのだった。
ソブリン債の信用回復は容易ではない。企業の場合は、リストラの断行などで、社債の信用を回復できる。しかし、国家におけるリストラは、増税や社会福祉の削減などになるため国民の反発は必至、信頼回復の道のりは険しい。
スペイン国債やハンガリー国債など、ソブリン債への連鎖的な不安が広がる中、今後が心配されるソブリン債がある。膨大な財政赤字を抱えている日本国債だ。巨額の借金という「荷物」を載せて走る日本国債という自動車に「ソブリン」という名はふさわしいのか…。静かな疑念が広がり始めている。