ところが、「もっと大きなハンディが欲しい!」とか、「あなたのハンディは大きすぎる!」などともめている人たちがいる。自国通貨の為替相場を安くしようと各国が争う「通貨安競争」だ。
為替相場は貿易という「ゲーム」のハンディの役割を持っている。日本企業が1台100万円の自動車を輸出する場合、1ドル=100円ならアメリカでの価格は1万ドルだが、80円に上昇すると1万2500ドルに価格が上昇し競争力が低下、反対に110円に下落すれば9091ドルと価格が下がり競争力が増す。為替相場は貿易というゲームのハンディであり、ハンディが大きければ自国製品の価格競争力が上昇して有利に、ハンディが小さければ不利になる。そこで、少しでも大きなハンディを得ようという通貨安競争が起こるのだ。
しかし、ゴルフのハンディが、腕前が上がれば自動的に小さくなるように、為替相場は、輸出競争力に応じて変動する仕組みを備えている。日本企業が良質の製品を生産すれば輸出が増加し、輸出代金としてドルなどの外貨の受け取りも増える。受け取ったドルは、外国為替市場で円に換えられるため、円買い・ドル売りが増えて円高が進む。日本企業がゴルフの腕前である輸出競争力を高めれば、円高が進んで自動的にハンディが小さくなる。為替相場には、貿易というゲームで、その成績の差である貿易収支に極端な差がつかないようにする「国際収支の自動調整機能」が備わっている。
したがって、政府が意図的にハンディを決めることは、公平性をゆがめる恐れがある。また、自国通貨が下落すれば、輸出業者にはメリットだが、一般国民には輸入品の価格が上昇し、海外旅行の費用も高くなるなどデメリットが生じる。通貨安競争は、輸出業者のみを優遇する不公平な政策とも言える。それでも通貨安競争が起こるのは、国内の景気が悪く、輸出に頼らざるを得ない国が多いためなのである。
急速に進む円高に、「ハンディが小さすぎて、勝負にならない!」と、危機感を強める日本政府に対して、アメリカは、自国のハンディが大きくなるので知らん顔をしている。一方、アメリカは中国の人民元相場が安すぎると批判している。中国は腕前を上げたにもかかわらず、人民元の相場は安い水準のまま、「中国のハンディは大きすぎる!」というわけだ。
ハンディが不公平だと、ゴルフコンペも楽しくなくなる。世界経済の秩序を維持するためには、ハンディを増やそうとする通貨安競争ではなく、為替相場を安定させて、実力に応じたハンディを設定することが必要なのである。