ポーカーなどのトランプ遊びで、「親」がカードを配り、新たなゲームが始まる際に使われる言葉だ。これを経済政策に使ったのが、第32代アメリカ大統領のルーズベルト。大恐慌を克服するため、大規模な公共事業を始めとした一連の景気対策を「ニューディール政策」と名付けた。そこには、「新規まき直し」という意味、更には政府という「親」が公共事業をカードのように国民に配るという意味も込められていたようだ。
「グリーン・ニューディール」は、ニューディール政策を引用する形で誕生した言葉で、アメリカのオバマ大統領が使ったことで世界的に広がった。
気候変動を中心とした地球環境問題、エネルギー危機、そしてリーマン・ショックが引き金となり、「大恐慌の再来」と言われた経済危機に対処するための政策の総称である。「大恐慌」の克服を目指したニューディール政策と、環境問題を連想させる「グリーン」が組み合わされた造語なのだ。
グリーン・ニューディールの中心は、環境対策に絞った大規模な公共事業で、これによって雇用を創出し、不況を克服しようとする。オバマ大統領は、景気対策として行われてきた道路やダムなどを建設する従来型の公共事業の代わりに、太陽光発電などのクリーンエネルギーの拡大、植物によるバイオ燃料の開発、家庭用電気コンセントから充電できるプラグイン・ハイブリッド車の普及などを打ち出す。エネルギー分野だけで10年間に1500億ドルの税金を投入、500万人の雇用を生み出すという壮大な計画だった。
環境問題を解決する上でも、グリーン・ニューディールは大きな力を持っている。環境問題は、自由な市場競争に任せていては解決できない。エコカーを例に考えてみよう。既存のガソリン車に比べて、エコカーの価格は高く、単純な競争原理では販売を伸ばせない。政府が補助金などの購買促進策を打ち出すことで、初めて普及が可能になる。市場の競争原理に任せるのではなく、政府が税金を投入し、普及促進を主導することが必要不可欠であり、これは環境問題全体に当てはまることなのである。
高い理念を持つグリーン・ニューディールだが、その実現は容易ではない。採算の取れない政策だけに無駄の温床にもなりかねず、政府の過剰な介入を牽制(けんせい)する動きも強い。オバマ大統領のグリーン・ニューディールも議会、とりわけ共和党の抵抗が強く、遅々として進んでいないのが実情だ。
日本でも2009年4月、麻生政権によって「日本版グリーン・ニューディール」といわれる「緑の経済と社会の変革」が打ち出された。地球温暖化対策など環境分野に予算を重点配分し、これによって雇用創出や景気回復を図るとしている。エコカー減税などもその一環だが、財源不足が深刻化する中、十分な成果を上げていないと言わざるを得ない。
政府という「親」が、国民に配るカードの色は「緑色」だ。しかし、グリーン・ニューディールが、国全体を緑で満たし、景気も回復させるのは、容易でないのが実情なのである。