アメリカ経済も同じような状況に追い込まれている。「財政の崖」に転落しかけているのだ。「財政の崖」とは、2013年にアメリカが陥る可能性のある、急激な緊縮財政を指す。同国政府はこれまで、「減税」と「財政支出」の2本柱の財政政策を積極的に展開してきた。ところが、13年に入った途端、その両方が同時に打ち切られる予定になっている。
減税とは、2000年代始め、当時のブッシュ政権が景気対策の一環として打ち出した、大規模な減税政策(ブッシュ減税)のことだ。個人の所得税率軽減を柱とした時限措置で、その期限が12年末に到来する。このまま「失効」すれば、国民の税負担は急増、個人消費を冷え込ませ、景気を悪化させることが懸念されている。
一方の財政支出も、大幅な削減が予定されている。増え続ける財政赤字を食い止めるために打ち出された「予算管理法」によって、13年から強制的に支出削減が行われるのだ。このままで推移すれば、減税と財政支出という財政政策の2本柱が同時に打ち切られ、総額約6070億ドル(48兆円)、GDPの約4.0%が減少することになる。アメリカの議会予算局は「13年前半に景気後退局面に陥る」と予測、中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長も強い警戒感を示している。アメリカ経済は、13年に突如として現れる財政の崖に転落しかねない状況だ。
法律を改正すれば、減税を延長することも、歳出削減を先延ばしすることも不可能ではない。しかし、アメリカの財政赤字問題は深刻であり、問題を先送りすれば、さらに深刻な事態を引き起こす恐れがある。また、ブッシュ減税は累進課税の軽減など、「金持ち優遇減税」との批判が根強く、オバマ大統領が大きな疑問を抱いている政策だ。大統領選挙と議会選挙を迎えているだけに、具体的な対策は選挙結果を受けてとならざるを得ない。このため、「時間切れ」で財政の崖に飛び込む可能性が高まっている。
同じような状況は日本にも当てはまるだろう。バブル崩壊で現れた巨大な崖に、引きずり込まれ、日本経済は長期にわたる不景気にあえいでいる。政府は財政政策を総動員して経済の再生を進めてきたが目立った成果は見られず、財政赤字は増える一方。いつまで現在のような財政政策を続けられるか分からない情勢となっている。さらにヨーロッパでもギリシャを始めとした債務危機が拡大、多くの国が財政支出の抑制に動いていて、これが景気をさらに悪化させているのである。
アメリカのみならず、世界経済全体が、財政の崖に追いつめられたクリフハンガーの状態にある。「絶体絶命の危機を、脱することはできるのか?」次のシナリオは、全く見えてこない。