この男性と同じような行動に出たのが、中国の李克強(リー・コーチアン)首相だ。その名に由来する「リコノミクス」と呼ばれる経済政策によって、中国の「バブル潰し」を目指しているのである。
急激な経済成長を遂げ、世界第2位の経済大国になった中国だが、同時にバブル経済の様相も強めている。膨れ上がった融資と過大な投資が長期にわたる好景気を生む一方で、実体経済から乖離(かいり)したバブルが発生、これが大きな歪みを生んでいるのである。
かつての日本がそうであったように、バブルはいずれ崩壊し、深刻な経済危機を引き起こす。危機感を強めた李克強首相は、バブル経済をソフトランディングさせるための経済政策を模索し始めた。これがリコノミクスなのだ。
リコノミクスの主眼は、中国経済を「高成長」から「中成長」にスローダウンさせ、バブルを緩やかに収束させることにある。中国経済の急激な成長の原動力となってきたのは、「シャドーバンキング(影の銀行)」と呼ばれる民間金融による融資拡大。これが過大な投資を呼び込んだ結果、膨大な不良債権が発生、バブル崩壊の引き金を引く恐れが高まっている。そこでリコノミクスは、金融機関の過大な融資を抑制、経営を健全に維持させながら、バブルを徐々に縮小させようとしているのだ。
リコノミクスではこのほかに、地方の無駄なインフラ建設や、需給バランスを無視して、生産能力過剰となっている製造業、さらには不動産投機などへもメスを入れようとしている。バブリーな生活を続ける知人女性に苦言を呈した男性と同じように、バブルで浮かれている中国経済に「お説教」し、構造改革を進めるのがリコノミクスなのだ。
しかし、大きな「痛み」を伴うことから、リコノミクスに対する風当たりは強い。バブルで潤っている人々からは、「問題などない! わざわざ景気を悪くさせる政策は不要だ!」と、批判的な声が上がっている。日本がバブルに浮かれていた時、一部の識者が鳴らした警鐘は熱狂する人々の声にかき消されてしまった。中国も同様で、最高意思決定機関である2014年の「全国人民代表大会(全人代)」でも、リコノミクスを具体化させるような方針は示されず、存在感が薄れつつあるのが現状なのだ。
結局、知人女性はバブリーな生活ぶりを批判した男性との交際を解消、「バブルの遺物」であり続ける道を選んだという。中国もリコノミクスという「お説教」には耳を傾けず、お祭り騒ぎを続けるつもりなのか? その先には、日本が陥ったと同様の、長く深い経済危機が待ち受けているのだが…。