金融の世界にも「白タク」が走っている。銀行の免許を持っていない金融機関が行う「シャドーバンキング」だ。銀行はお金を預かって必要な人に融資の形で送り届け、運賃に相当する金利を徴収する「お金の輸送業者」。乗客であるお金を安全・確実に運ぶために、銀行は金融当局から免許を受けた上で、金利水準や融資の方法などに厳しい規制を課せられている。一方、銀行以外の金融機関が行うシャドーバンキングは規制が緩やかで、金利や取引手法なども自由に設定できる。料金や車種などに制限がある認可タクシーとは異なり、自由な料金設定と多彩な車種で走り回る「白タク」がシャドーバンキングにあたる。
シャドーバンキングは、通常の銀行では許されない高金利でお金を集め、それをさらに高い金利で融資し利益を上げている。「安全第一」の銀行とは異なり、シャドーバンキングでは、銀行が融資できない経営不振企業向けなど、リスクの高い融資が行われることも多い。その一例が住宅金融専門会社の提供する「サブプライムローン」で、銀行融資が受けられない低所得者向けの住宅ローンだ。サブプライムローンはお金をあまり持っていなくても利用できる「格安タクシー」だったが、これが巨額の焦げ付きを生み、経済を大混乱に陥れた。「格安タクシー」は造りが粗雑で、事故が続発してしまったというわけだ。
シャドーバンキングには、デリバティブ(金融派生商品)を始めとした最新の金融取引手法を導入したものもある。融資が焦げ付いた場合に、その返済を保証する「CDS(Credit Default Swap、クレジット・デフォルト・スワップ)」はその典型で、証券会社や保険会社などが提供している。高度な金融手法を駆使する「CDS」は、高性能のスポーツカーを使ったタクシーだったが、こちらも巨額の損失を招いてしまう。スピードが速すぎて、コントロールを失ってしまったわけだ。
シャドーバンキングに対する不安が高まっているのが中国だ。政府が金利を規制していることから、銀行預金より高い金利でお金を集める「理財商品」が急拡大、2013年3月末時点で8兆2000億元(約130兆円)に膨れ上がっている。集まった資金は不動産投資などリスクの高い融資に回され、バブルの元凶になるなど、中国経済の不安定要素になっている。
しかし、シャドーバンキング全てが「悪」というわけではない。厳しい規制が銀行の自由競争を阻害、必要な所に資金が供給されない事態も生んでいる。シャドーバンキングはこうした弊害を取り除き、より高度な金融取引を広める原動力ともなっている。
海外旅行先で乗った「白タク」だが、運転はスムーズで料金も格安、運転手の言葉にウソはなかった。「シャドー(影)」という言葉から、「ヤミ金融」などを連想されるシャドーバンキングだが、両面があることを忘れてはならない。