同様の「わな」が世界経済にもある。「中所得国のわな(中進国のわな)」だ。「中所得国(中進国)」は、「先進国」と「発展途上国」の中間に位置している国で、世界銀行は1人当たりの国民総所得が約1000~1万3000アメリカドル程度の国であると定義している。先進国が「J1」なら中所得国は「J2」、発展途上国は「J3」に相当するが、中所得国になったものの、その後は停滞し、なかなか昇格できない国が少なくない。これが中所得国のわなだ。
発展途上国から中所得国への昇格は比較的容易で、安くて豊富な労働力を生かし、海外からの投資を呼び込んで軽工業など生産性のより高い分野に投入できれば、十分に可能となる。ブラジルやアルゼンチン、コロンビアといった中南米諸国、タイやベトナムなどがその典型で、ミャンマーも民主化によって外国からの投資が活発化、中所得国に昇格するのは時間の問題とされる。技術的には未熟ながらも、やる気のある若い選手がいて、優秀な監督とある程度の資金があれば「J2」まで昇格は可能というわけだ。
しかし、先進国への昇格は簡単ではない。中所得国になったことで賃金が上昇、人手不足も発生して生産性が低下、より高い技術水準も要求されることから、世界市場での戦いは苦戦を強いられるためだ。1980年代初めに中所得国となったブラジルやアルゼンチン、南アフリカなどは、将来の先進国候補として期待されたものの、その後は足踏みを続けている。
こうした中、わなにかからなかったのが韓国だ。80年代半ばに急成長を遂げ、ブラジルらを瞬く間に抜き去って90年代前半には先進国の仲間入りを果たした。韓国が「中所得国のわな」を乗り越えられた要因の一つが、産業構造の高度化に成功したこと。韓国は繊維などの軽工業から、電気機械など高付加価値分野への進出に成功、これが先進国入りの原動力となった。
中所得国のわなを抜けるためには、投資や金融取引の自由化、規制緩和と積極的な市場開放、健全な市場取引の確保に政治的な安定など、いくつもの条件が必要とされる。ブラジルなどの国々は、軽工業から脱却できず産業構造の高度化に失敗、金融市場の整備の遅れや閉鎖的な国内市場、貧富の差の拡大による政治体制の不安定化などの要因が重なり、中所得国のわなから抜けられないでいるのだ。
「J1に昇格するためには総合力、そして他のチームにはない“何か”が必要だ」と、知人は言う。中所得国という「J2」で戦う国々が「わな」にはまらないためには、厳しい国際競争を勝ち抜く経済力、そして他国がまねできない“何か”を獲得することが必須なのである。