同じことが「決済通貨」でも起こっている。国際銀行間通信協会が行った2015年8月の調査で、中国の人民元が日本の円を抜いて決済通貨のシェア世界第4位になったのだ(以下の数字はすべて同調査より)。
決済通貨は貿易や資本取引などの国際的な取引で使われる通貨のこと。日本からアメリカに輸出する場合、代金をドルで受け取るのか、円で受け取るのかという、決済通貨の決定が必要となる。決済通貨が日本円なら代金をすぐに使うことができるが、ドルの場合には両替の手間もかかる上に、為替リスクも発生する。可能なら日本円を決済通貨にしたいところだが、取引先との力関係などに左右されて、ドルになることが多い。海外旅行先で、日本国内で使い慣れたJCBを使いたいと思っても、お店から「ビザ以外はダメ!」と、拒否されてしまうわけだ。
一方、開発途上国との取引などでは、相手国の通貨を決済通貨することはまれだ。信用力が不十分で、為替相場が暴落することもあり、最悪の場合には紙くずになってしまう恐れがあるからだ。発展途上国で発行された見たこともないカードでは、買い物はできないのが現実なのである。
決済通貨に選ばれるためには、発行している国の信用力と経済力、そして流通範囲が大きな要素となるが、政府の後押しも無視できない。日本の経済規模や信用力に比べ、決済通貨としての円のシェアは極めて低い。日本政府はこれまで規制を緩和したり、外交の場などで日本円での取引のメリットを訴えたりして、「円の国際化」を推進してきた。しかし、その成果は乏しく、決済通貨としての円のシェアは2.76%に過ぎない。
日本がもたついている間に、シェアを伸ばしてきたのが中国だ。GDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位の経済大国になる中で、中国政府は為替政策の自由度を高めたり、国際通貨基金(IMF)の準備資産である特別引き出し権(SDR)に人民元を組み入れるよう要求するなど、積極的な「人民元の国際化」を推進している。ビジネスの場面でも、人民元で決済するように取引相手に求める強気姿勢が目立ち、決済通貨のシェアでも2.79%と、わずかではあるが日本を抜いたのだ。
決済通貨のシェアはドル(44.8%)とユーロ(27.2%)が圧倒的で、これにポンド(8.5%)が続いている。クレジットカードのシェア争い同様に、国際的な取引でしのぎを削っている決済通貨。圧倒的なシェアを誇るドルやユーロに比べて、日本円もシェア拡大中の人民元も、ごく一部でしか使うことのできない「弱小カード」と言うのが現状なのだ。