全体像が見えてこないのは、中国経済も同じだ。中国政府は、経済活動を総括するGDP(国内総生産)を3カ月ごとに発表している。しかし、人口13億人の巨大な経済活動を集計するのは困難な作業で、信憑(しんぴょう)性も低いとされている。
そこで注目されているのが「李克強指数」だ。中国の李克強首相が提案したもので、(1)鉄道貨物輸送量、(2)電力消費量、(3)銀行の融資残高という三つのデータから、経済の現状を探ろうとするもの。経済活動が活発になれば、鉄道貨物の輸送量も電力消費量も増加、銀行融資が増えれば、設備投資などの企業活動が活発になっていることが推察できる。中国経済は巨大なので、経済活動の一部に着目し、そこから全体像を明らかにしようというわけだ。
李克強指数は、李克強氏が遼寧省の党書記だった時代に提唱したもので、政府が発表するGDPは人為的で信頼できないというのがその理由だった。実際、多くのエコノミストが、中国のGDPに大きな疑問を抱いている。
中国政府は15年7~9月期のGDP成長率を前年同期比プラス6.9%と発表、目標の7%には及ばないものの、まずまずの数字と自ら評価した。しかし、経済活動全体を把握するGDPの算出には膨大な労力と時間が必要で、日本の7~9月期GDPの「第1次速報値」は、11月19日に発表されている。ところが中国では10月19日に発表されており、日本より1カ月も早い。中国経済は人口が13億人もいる巨大な規模なのに、本当に集計しているの? と、疑問符が当然のように付けられている。
さらに、日本では「第2次速報値」、その次に年度別の「確報値」と、GDPの精度が高められて行くが、中国の発表は一度だけで修正もなし。中国のGDPは、政府が自分に好都合な数字をねつ造した「主催者発表」だというのだ。
李克強指数が注目されるのはこうした理由からだが、問題点もある。中国企業の物資輸送はトラックが中心で、鉄道はあまり利用されていないし、銀行の融資先は政府系機関が中心で民間企業への融資は限られているという。李克強指数から、中国経済全体を推測するのにも無理があり、信頼度は低いといわれる。
李克強指数から推測される中国の7~9月期のGDP成長率は3%程度といういわゆる「警察発表」をするエコノミストもいる。6.9%という「主催者発表」よりずっと低いが、どちらが正確なのかは、誰も分からない。世界中が注目する中国経済の動向に答えるデータは、どこにも存在しないのである。