ビジネスの世界でも同じことが行われている。これを「プラットフォーム戦略」という。「プラットフォーム」は「土台」という意味で、単純に製品やサービスを提供するのではなく、それらが使われる「場」そのものを作り上げて消費者や同業他社を呼び込み、ビジネスを優位に進めようとするもの。強い柔道選手になるのではなく、柔道という競技そのものを考案してオリンピック競技に仕立て上げ、お家芸の強みを発揮しようとするのである。
プラットフォーム戦略の成功例が、パソコン基本ソフトのウィンドウズを提供しているマイクロソフトだ。ウィンドウズを世界の多くのパソコンに標準装備させるというプラットフォーム作りに成功したマイクロソフトは、パソコン本体や周辺機器から、ソフトウエアに至るまで強い影響力を発揮して大きな利益を上げてきた。
アップルもプラットフォーム戦略に成功した企業の一つ。携帯音楽プレーヤーのiPodを世界に広めると同時に音楽配信ビジネスも主導したり、iPhoneという独創的な商品を開発し、そのコンテンツビジネスを支配したりしてきた。自分で考案した新しい競技を世界に広め、お家芸の強みを発揮して、利益という金メダルを量産してきたのだ。
しかし、プラットフォーム戦略を成功させるのは容易ではない。どんなに優れたビジネスモデルでも、多くの利用者を獲得できなければプラットフォームを作ることは不可能だ。柔道が素晴らしい競技であっても、競技人口が少なかったり、日本限定だったりすれば、オリンピック種目には採用されず、プラットフォームにもなり得ない。プラットフォーム戦略を成功させるためには、ビジネスモデルが優れているだけではなく、これを広めるマーケティング力も必要となる。
また、プラットフォームを作り上げても安心はできない。プラットフォーム上で激しい競争が展開される結果、優位性が失われることがある。日本柔道も近年は外国勢に押され気味であるように、自らが作り上げたプラットフォームの上で油断していると、お家芸を奪われかねないのである。
いま、新たに燃料電池車というプラットフォーム作りに挑んでいるのがトヨタ自動車だ。ところが、先行するトヨタ自動車に他のメーカーが追いつけず、思うような広がりを見せていない。トヨタ自動車が強すぎて、一緒にプレーしてくれる相手が増えないのだ。そこでトヨタ自動車は、自社が保有する燃料電池車の特許の無償公開に踏み切った。「燃料電池車は素晴らしい競技。無料で教えるので、他のメーカーの皆さんも一緒にやりましょう!」と、お家芸のメリットを放棄してまでも、いまは競技人口を増やすことを優先して、燃料電池車を“オリンピック競技”にしようとしているのだ。
お家芸を発揮できるプラットフォームを作り上げることができるのか…。多くの企業が、様々な分野で挑戦を続けている。