ユニコーン(一角獣)は、旧約聖書や古典文学、絵画などに登場し、イギリス王室の紋章にも描かれている想像上の生き物だ。額の真ん中に角が一本だけ生えた馬のような姿で描かれる場合が多く、「どんな相手も一撃で倒すことができる」「角には解毒作用がある」など、実在しないがゆえに、人々の想像力をかき立てる存在となっている。
そんなユニコーンが、株式市場にも生息している。「ユニコーン企業」は、企業価値が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業を示す言葉。名付け親はベンチャー企業に投資を行うベンチャーキャピタリストのアイリーン・リー。星の数ほど存在するベンチャー企業の中に、時として巨大だが正体が判然としない企業が現れる。その神秘性が、投資家の大きな関心を集めることから、謎の生き物であるユニコーンになぞらえたのであった。
ユニコーン企業の最大の特徴が非上場であること。株式会社は証券取引所へ上場(株式公開:Initial Public Offering)することによって、一般投資家が自由に株式を売買できるようになる。この際、投資家に十分な情報を与えることが必要となるため、企業の実態や財務データなどが徹底的に公開される。しかし、非上場企業には情報公開の義務はなく、企業側が自主的に公開した情報から想像を巡らさざるを得ない。非上場であるために、真の姿を見ることができない「想像上の投資先」がユニコーン企業であり、上場して初めてその全貌(ぜんぼう)を現すのだ。
ユニコーンが多くの人々を魅惑するように、ユニコーン企業も投資家心理を揺さぶる魅力を持つ。想像上の投資先が上場して売買可能になった時、投資家は熱狂し株価が高騰することが多い。フェイスブックやツイッターなどもかつてはユニコーン企業で、その上場は大きな注目を集め株価が暴騰した。中国最大の電子商取引会社アリババグループも、特大級のユニコーン企業だった。アリババグループがニューヨーク証券取引所に上場したのは2014年9月19日。その日、時価総額が2300億ドル(約25兆円)規模と、トヨタ自動車(約22兆円)を超える巨大企業が姿を現した。アリババ・グループの株式を保有していたソフトバンクには8兆円近い含み益が発生するなど、ユニコーン企業は莫大(ばくだい)な利益をもたらす可能性を秘めているのだ。
アメリカの調査会社TechCrunchによると、18年3月現在、279社のユニコーン企業があるという。その中にはスマホを使ったハイヤー配車サービス「Uber(ウーバー)」、スマホを中心とした総合家電メーカー「Xiaomi(シャオミ)」、宿泊施設の予約サービスの「Airbnb(エアビーアンドビー)」などがある。日本にも数は少ないがユニコーン企業がある。その一つがスマホ上でのフリーマーケット事業を展開する「メルカリ」。企業価値は1500億円程度と推計されるだけに、国内外の投資家が固唾を飲んでその動向を見つめている。
ユニコーン企業の中には、「よく見たら、やせ細った駄馬だった」と、上場後に投資家を失望させるものもある。ユニコーンはあくまでも想像上の生き物、過大な期待は禁物。しかし、その謎めいた姿は、投資家たち翻弄(ほんろう)し続けている。
ユニコーン企業
[Unicorn]