日本からどんどんお金が出て行く一方で、海外から日本に押しかける人々がいる。ヘッジファンドなどの、海外の投資家だ。彼らのお目当ては、日本人が不満に思っている低金利で、これを利用したのが「円キャリー取引」である。
ヘッジファンドなどの投資家は、金融機関などからお金を借りて、株式や債券などに投資することが多い。アメリカの場合、投資資金を借りるには、最低でも4~5%の金利を支払う必要があるのだが、超低金利が続く日本では、2%、場合によってはさらに低い金利でお金を借りることができる。
そこで、投資資金を日本で大量に借り入れる海外の投資家が出てくる。彼らは、日本人が海外で安いブランド品を買い漁るように、日本にやってきて低価格の円を大量に「購入」するというわけなのだ。
しかし、彼らは借り入れた円を日本国内では使わずに、ドルなどに交換して海外で投資し、運用益との差である利ざやを稼ごうとする。これが「円キャリー取引」だ。
円キャリー取引が活発に行われた理由には、日本の低金利に加えて、円安もあった。円キャリー取引では、必ず外貨への交換が行われるため、外国為替相場が重要な役割を持つ。
今、ある投資家が2%で円を借り、アメリカで金利5%の債券を購入したとしよう。この段階で3%の利ざやが稼げる。
ここで、借りた円をドルに換えた時の為替相場が1ドル=110円、その後相場が1ドル=120円まで円安・ドル高になったとすると、その上昇分の約9%が上乗せされて、12%の利ざやが得られることになる。円安・ドル高になったことで、円キャリー取引の利益が一層大きくなったというわけだ。
しかし、反対に円高・ドル安になると、利益は大きく減少し、場合によっては元本割れとなる。1ドル=110円で円キャリー取引を実行した後、1ドル=100円まで円高・ドル安になった場合、約9%の為替差損が発生、差引きマイナス6%と元本割れになってしまう。
こうしたことから、円キャリー取引を行っている投資家は、外国為替相場の動きに敏感となる。
この他、投資家は、円の金利動向や、借りた円で購入した海外の株式や債券などの金利の動きにも目を凝らす。そして、円金利が上昇したり、株式などの価格が大きく下がるようなら、円キャリー取引を解消しようとする。海外に旅行させているお金に危機が迫ってきたので、帰国させるというわけなのだ。
これがしばしば市場を大混乱に陥らせる。円キャリー取引が解消される場合、海外では株式や債券が売られて市場が暴落する恐れがあり、また、円高・ドル安も引き起こすのだ。
楽しいはずの海外旅行でトラブルに巻き込まれ、悲しい気持ちで帰国することがあるように、大きな利益をもたらす「円キャリー取引」にも、大きな落とし穴があることを知っておく必要があるのである。