パンはお昼寝が大好き、性格も温厚だと考えられていた。しかし、ある日の午後、いつもと同じように昼寝をしていたパンを、誰かがうっかり起こしてしまう。するとパンは猛烈に怒って暴れ始め、驚いた人間や家畜が大慌てで逃げ回る…。これがパニック(panic)の語源となったエピソードだとされている。思いもかけない事態が発生した際、人々の不安が増大し、大混乱に陥るというわけだ。
パニックは、金融市場などでも時折発生している。大企業の経営不安説や金融政策の変更、発表された経済成長率が予想外に悪かったといったニュースが、何の前触れもなく突然流されると、市場参加者が慌てて我先にと株や通貨を売り、相場が暴落してしまうのだ。
パニックが発生する最大の理由は、市場参加者に十分な情報が提供されず、不安感が膨れ上がってしまうことにある。
ある大企業の経営不安説が流された場合、その実態が包み隠さず公表されていれば、市場は冷静に受け止め、パニックは発生しにくい。ところが、経営不安の実態が十分に公表されていないと、「同業他社も危ないのでは?」「融資している銀行もつぶれるかもしれない」と不安心理が増幅し、連鎖的な売りが発生して、パニックに陥ってしまうのである。
銀行の取り付け騒ぎなども同様だ。十分な情報開示がなされないままに、「あの銀行が危ない」といううわさが先行、預金者が殺到してパニックに陥ってしまう。パニックに「恐慌」という意味があるのも、こうした経験があってのことなのである。
パニックを防ぐためには、迅速かつ徹底した情報開示が必要だ。どんなに悪いニュースであっても、それが的確に、しかも冷静に伝えられれば、市場は大混乱しないものだ。また、市場参加者がある程度そのニュースを予測している場合には、「織り込み済み」として、それが発表された時にはほとんど市場に影響を与えないこともある。情報が迅速かつ的確に伝えられていれば、市場は過剰反応することもなく、パニックは避けられるのである。
もちろん、「アメリカでテロ!」とか、「総理が突然倒れた!」といった突発的なニュースは織り込めるはずもなく、パニックは発生してしまう。しかし、可能な限り情報を公開することで、その影響を最小限にとどめることができるのだ。
静かにお昼寝をしているパンだが、油断は禁物だ。パンの前に、「うっかり起こしたら大変なことになります」という注意書きを立てておくことが、パニックを回避する有効な手段なのである。