金は有史以前から富と繁栄の象徴であったと同時に、「金貨」はもとより、第二次世界大戦後のIMF(国際通貨基金)通貨体制でも、金を裏付けとした「金本位制」が採用されるなど、長らく世界経済の主役の座にあった。
1973年までに各国が変動相場制に移行したことから、固定相場制を義務付けるIMF通貨体制は崩壊し、金は主役の座を降りた。しかし、現在もその重要性に変わりはなく、金価格は世界の経済動向に敏感に反応している。
金価格を決定している中心的な市場は、ロンドンとニューヨークにある。ロンドンの金市場は、実際に金塊(金地金)がやりとりされる「現物市場」だ。一方、ニューヨークの金市場は「先物市場」で、原油(WTI)などが取り引きされるNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)の一部門、COMEX(Commodity Exchange Inc ニューヨーク商品取引所)で売買され、実物の金塊をやりとりせずに取り引きすることが可能となっている。
金価格を決める要因は様々だ。金は工業用としても使われてはいるが、実際の用途では宝飾品などに使われる割合が圧倒的に多い。したがって、景気が良くなれば需要が高まり金価格は上昇、反対に景気が悪化すると下落する傾向を持つ。
一方で金は、株式や債券、外国為替などと同様の投資対象にもなっていて、経済の様々な変化を反映して価格が変動している。投資対象としての金価格の動きは独特で、株式などとは逆の動きを示すことが多い。株式市場が先行き不安に陥ると、投資家は資金を引き揚げて、新たな投資対象を探す。こうした場合、金は最も有力な投資先となっていることから、株価が下落すると、金価格が連動して上昇するということがしばしば起こる。
金価格は、大規模なテロや戦争が起こった場合にも上昇する。「有事の金買い」と言われる現象だ。金はまた、インフレから逃れる手段ともされている。インフレとは、「モノ」の価格である物価が上昇し、貨幣の価値が下がること。したがって、インフレによる損失を回避するには、「最も高い価値を持つモノ」である金が買われることになる。
政治・社会情勢の不安増大や貨幣の信用が低下した場合、かつて貨幣の役割を担い、世界共通の価値を持つ金に信用が集まり、価格が上昇するというわけなのだ。
しかし、金を保有するには、手間とコストがかかる。自宅の金庫にしまっておくのは不安だし、どこかに預けると保管料がかかる。現金は銀行に預ければ利息がもらえるが、金は預けると手数料という「マイナス金利」が発生してしまう。
しかし、こうしたコストがあるにもかかわらず、投資対象としての金価格が大きく上昇することがある。99年には1トロイオンス250ドル台と史上最安値圏にあった金価格が、新興国の需要増などを背景に上昇を続け、2008年3月には一時1000ドルを突破した。新興国の需要が落ち込んだ現在も、深刻化する金融危機を背景に、安全な投資先を求める資金が市場に流れ込んで、金価格は高止まりしている。金融危機、そして世界的な景気悪化がさらに進めば金価格は一層上昇し、1トロイオンス2000ドルになると予測する専門家も出始めている。
古代から富の象徴であった金。その価格高騰は、「過去の遺物」でコストもかかる金に頼らざるを得ないほど、世界経済が不安定になっていることを示しているのである。