“Charging Bull”(突撃する雄牛)、あるいは“Wall Street Bull”と呼ばれるこの彫像は、1987年の株価大暴落、ブラックマンデーで落ち込んだ人々を勇気づけようと、一人のアーティストが自費で製作したものだ。
実は、雄牛(bull ブル)は相場の世界では「上昇」「強気」の象徴なのだ。「相場上昇」を「ブル」と言うのは、雄牛が相手を攻撃する場合に角を下から突き上げる姿が、相場上昇に重なるからなのである。
英語圏の株式市場や外国為替市場のディーラーたちは、この「ブル」という言葉を頻繁に使う。ディーラー仲間の情報交換で、「今日の株式市場はどうだった?」という問いに“Today was bull market”とか、“Market was very bullish”(とても強気だった)と言ったりする。
「ブル」という言葉は日本でも次第に浸透し始めている。「今日はブルだったねえ…」と、個人投資家同士が使ったり、株式ニュースなどで時折見かけたりするようになった。また、投資信託の中にも、株価が値上がりした時に、より一層利益が出るような特別な仕組みを持つものを「ブル型投信」と名付けている場合もある。
相場が上昇する場合に使われる「ブル」に対して、下落する場合に使われるのが「ベア」(bear 熊)である。
相場が下落するのだから、ひ弱な動物になぞらえそうだが、こちらも強い動物である。熊が相手を攻撃する場合、鋭いツメを持つ腕を上から振り下ろす。これが相場の下落のイメージに重なることから、こうした表現が使われるようになったのだ。
こちらも、「ブル」同様に使用頻度が高まっていて、「ブル型投信」があるように、「ベア型投信」も存在している。ベア型投信は「先物取引」などの特殊な取引を行うことで、株価が下落すれば下落するほど利益が出るという、特殊な投資信託となっている。
アメリカの大手証券会社メリルリンチのトレードマークは「ブル」、とても強そうな雄牛の絵がロゴとして使われている。一方で、縁起が悪いことから「ベア」をトレードマークにしている証券会社はない。ベア・スターンズという大手の証券会社があるが、こちらはJoseph BearsとRobert Sternsという2人の創業者の名前をとったもの、「熊」という意味ではない。
ところが、このベア・スターンズ証券は、サブプライムローン問題で巨額の損失を出して経営が破綻、JPモルガン・チェースグループに身売りする羽目になってしまったのは、皮肉な偶然と言わざるを得ない。
ウォール街のトレーダーの中には、縁起担ぎに毎朝“Charging bull”をさわってから出社する人もいるという。相場の動きを示す「ブル」と「ベア」は、景気など経済活動全般に使われることもある。英語の経済ニュースを見る際には、チェックして欲しい言葉なのだ。