学力テストのクラスの平均点数が下がり続けていて、担任である自分の指導力が問われかねない状況に陥っているのだ。テスト問題を事前に教えてでも点数をアップさせたいというのが、クラス担任の本音だろう。
テストの点数を、先生が強引に引き上げようとするのが「株価維持政策」だ。英語の“Price Keeping Operation”を略して“PKO”、「国連の平和維持活動」(Peace Keeping Operation)と区別するために「株価PKO」と呼ばれることも多い。
企業を「生徒」と考えると、株価は「学力テストの点数」に相当する。景気が落ち込み、企業の業績が悪化すると、これを反映して株価が下落、さらには日経平均株価というクラス全体の平均点も下落する。株価の下落→景気のさらなる悪化→企業業績の悪化→株価下落→景気の一層の悪化という、悪循環に発展する恐れも出てくる。
こうしたことから、政府や日本銀行が介入し、株価を支えて悪循環を断ち切ろうとすることがある。これが株価維持政策だ。具体的には、政府や日銀が自らの資金で株式を購入し、株価を上げようとするもの。先生が自らテストに参加したり、問題をこっそり教えたりして、クラスの平均点を引き上げようというのである。
日本での戦後初の本格的な株価維持政策は、1965年に打ち出されている。東京オリンピック後の景気後退が株価の暴落を引き起こした証券恐慌に際して、大蔵大臣だった田中角栄が打ち出した政策だ。日本共同証券と日本証券保有組合という二つの組織を作り、日銀の資金を活用して株式を大量に買い上げたのだ。先生が自分の分身である2人の「秀才」をクラスに入れて、強引に点数を引き上げようとしたわけだ。
バブル崩壊後の株価暴落に直面していた92年には、郵便貯金や厚生・国民年金といった「公的資金」で株式を購入する際の条件を緩和、これによって株式市場への資金流入を促進させる政策が試みられた。また、2003年には、銀行が保有している株式を日銀が購入、株価を支えようという緊急措置が実施されたこともあった。
しかし、株価維持政策に批判も多い。株価を強引に引き上げても、実力が伴っていなければ一時的なもので終わってしまいかねない。また、購入した株式が値下がりした場合、その損失は政府や日銀が被ることにもなる。
さらに、本来は自由な売買で形成される株価に介入することは、資本主義の根本である市場原理に反するという批判もある。生徒のテストの点数を上げるために、先生が手を貸すのはルール違反だというわけだ。
また、政府が株式を購入しても、思ったように株価が上がらないという指摘もある。景気と企業業績の悪化が進む中においては、誰もが株式を売りたいが、買い手がいなくて困るという事態となる。こんな時、政府という買い手が出てきてくれれば、これ幸いとばかり株式を売りつけて、全く効果を上げないということにもなりかねない。先生がテストを受けても点数が伸びず、面目丸つぶれになってしまうというわけだ。
08年に始まった世界的な金融危機の直撃を受け、株価が暴落している東京市場。政府内からは再び株価維持政策を求める声が出始めている。その一つの方法として、09年3月からは、銀行の株式持ち合いを解消する際の受け皿となった銀行等保有株式取得機構を活用した、株式の大量購入が始まっている。
しかし、政府がするべきことは、急場しのぎの株価の押し上げ策ではなく、景気回復と企業業績による自律的な株価引き上げ策だ。生徒たちの点数を水増しするのではなく、成績が上がるように指導して行くことこそ、真の株価維持政策なのである。