外国為替市場でも、同じような現象が起こっている。個人投資家というアマチュアが、外国為替市場という大きな球場で自由にプレーできるようになっているのだ。これを可能にしたのが「外国為替証拠金取引」。通称は「FX」、外国為替取引の“foreign exchange”を略したものだ。
外国為替市場は、長い間、銀行や証券会社など一部のプロだけしか直接参加が認められていなかった。外貨の両替を除くと、個人に許されていたのは円をドルに換えて外貨預金を作成、タイミングを見計らって円に戻すという「ドル買い取引」のみ。ドルを最初に売って後に買い戻すという「ドル売り取引」は不可能だった。
限られた人しかプレーできない、ハードルの高い球場だった外国為替市場。これを一気に開放したのが外国為替証拠金取引、1998年の法律改正で認められたものだ。
外国為替証拠金取引は、その名の通り「証拠金」を支払うことによって外国為替取引を可能とするもの。為替相場が1ドル=90円の時、通常の為替取引では、100万ドルの取引をするには9000万円の現金が必要となる。
しかし、外国為替証拠金取引では、少額の証拠金を納めれば取引が可能となる。証拠金が取引額の1%の場合、100万ドルの取引に必要なのはその1%の1万ドル(90万円)に過ぎない。外国為替証拠金取引の最大の特徴は、少額の証拠金を支払えば、その何倍もの取引が可能となる「レバレッジ(てこ)効果」を持っている点だ。
また、外国為替証拠金取引では、従来は不可能だった「ドル売り」の取引も自由にできるようになった。さらに、1ドル当たり1円、売り買いをすると2円という高額だった取引手数料も、数銭にまで低下、プロの投資家と同じような条件で取引が可能となった。
外国為替証拠金取引の登場によって、一般の投資家が次々に外国為替市場に参入するようになった。従来は、プロ野球選手しかプレーできなかった東京ドームで、アマチュアの選手が自由にプレーできるようになったのである。
外国為替市場は東京のみならず、ニューヨークやロンドンなどの世界中の市場とつながっている。外国為替証拠金取引をする人の中には、深夜にニューヨーク市場で取引を行うという人も現れた。外国為替証拠金取引は、東京ドームのみならず、ヤンキースタジアムでもプレーができるのだ。
こうした一般投資家の中にはプロ顔負けの相場感覚を持ち、莫大な利益を上げる「FX長者」も現れるようになる。プロ野球選手に交じって、草野球チームのバッターがホームランを放っているというわけだ。
外国為替市場の垣根を取り払った外国為替証拠金取引だが、リスクも大きい。少額の資金で巨額の取引が可能であることは、巨額の利益と同時に損失の可能性も出てくる。プロ野球の選手に交じってメッタ打ちにされ、球場から逃げ出すという事態に陥ることも覚悟しなければならない。
草野球の選手に、東京ドーム、さらにはヤンキースタジアムでのプレーを可能にした外国為替証拠金取引。しかし、外国為替市場は、プロですら生き残るのは容易ではない「戦場」だ。そのことを肝に銘じて、そのグラウンドに立つ必要があるだろう。