こうした「掘り出し物」を狙うのが「バリュー投資」だ。バリュー投資は、業績や企業の価値よりも株価が安くなっていると考えられる株式を狙って、積極的に投資をすること。割安であるにもかかわらず投資家から注目されず、放置されている株式を探し出して、利益を上げようとする。
割安かどうかを判断する主な尺度(指標)が「PER(株価収益率)」と「PBR(株価純資産倍率)」だ。
「PER」は株価が一株当たりの利益の何倍になっているかを示すもので、株価が500円、一株当たりの利益が50円ならPERは10倍となる。PERが何倍なら適正という水準はないが、東京証券取引所1部の平均PERは16.3倍(2012年8月末)であることから、一般的には10倍以下なら割安と判断され、バリュー投資の対象となる。オークションに出されていた版画で言えば、同じ画家の他の作品、あるいは、同じような評価を受けている画家の作品と比べてみて、価格が安いかを判断するのだ。
一方、「PBR」は、一株当たりの資産額と株価を比較する。企業が保有している純資産(株主資本)が5億円、株式総数が1000万株の企業の場合、一株当たりの資産額は50円となる。PBRは株価を一株当たりの資産額で割り算するもので、株価が40円ならPBRは(40円÷50円=)0.8倍となる。もし企業を清算した場合、一株当たり50円を受け取ることができるから10円のお得、株価は割安と考えられる。オークションに出されていた版画で言えば、額だけで5万円の値が付くなら、版画が贋作でもPBRは1倍、もし、額縁が7万円で売れるならPBRは(5万円÷7万円=)0.71倍と一層お得になる。分岐点となるPBRは1倍で、これを下回るほど割安感は高くなり、バリュー投資の対象となってくる。
バリュー投資には、投資額を低く抑えられるというメリットもある。バリュー投資の対象となる株式は株価が低い。一株50円なら1000株購入しても投資額は5万円、紙くずになって我慢できる金額だ。しかし、一株500円の株式なら1000株で投資額は50万円、株式が紙くずになった場合はもちろん、日々の値動きによる損失も大きくなる。オークションに出されていた版画が50万円なら二の足を踏むが、5万円なら「贋作でも諦めがつく」ように、バリュー投資は損失額が限定的になるため、投資しやすくなる。
世界的に知られる投資家ウォーレン・バフェット氏もバリュー投資を基本としているが、メリットばかりではない。割安にもかかわらず投資家から無視され、株価が低迷している背景には、将来性や社会的な信用度など、数字では表せない原因がある場合が少なくない。「掘り出し物」だと思ったら、見えないところにキズがあり、買った後で後悔することもある。
筆者は結局、その版画を5万円で購入した。版画は本物であり、筆者にとっては十分な価値(バリュー)がある買い物となった。すべて掘り出し物ではないが、バリュー投資は、有効な投資手法の一つなのである。