「ランダムウォーク理論」は、株価や外国為替相場などの動きが不規則(ランダム)で、予測不可能であるとする考え方。日経平均株価が前日より高くなる確率は50%、下落する可能性も50%で、その翌日も同じ。10日連続で上昇していても、11日目は「値上がりが続いたから…」と下落する可能性が30%に下がることはなく、あくまで50%ずつになる。千鳥足の知人が道路に飛び出すのか、歩道の溝にはまり込んでしまうのか分からないように、相場もフラフラしているだけで方向感がないというわけだ。
ランダムウォーク理論を証明する際に持ち出されるのが「猿のダーツ投げ」のエピソード。株式投資をする際、新聞の株式欄目がけて目隠しをした猿にダーツを投げさせ、命中した銘柄を購入させてみた。その成績は、株式トレーダーが様々な手法を駆使した場合と大差なかったという。
筆者も外国為替のトレーダーをしていた時に、ランダムウォーク理論の実践を試みたことがある。毎朝トレーディングを始める前にコインを投げ、表がでれば「円買い」、裏がでれば「円売り」という単純な方法で1カ月間取引を続けた。その結果は、経済のファンダメンタルズや投資家の動向、国際情勢など総合的に判断した場合よりも好成績だったのだ。余計なことは考えず、毎日「一か八か」の取引をしていた方がよいという事実は、自分を否定されたように感じられて、落ち込んだことを記憶している。
トレーダーを「猿並み」にしてしまったランダムウォーク理論には、2013年にノーベル経済学賞を受賞したユージン・ファーマ教授が発展させた「効率的市場仮説」という理論の裏付けがある。「効率的市場仮説」とは、株式市場や外国為替市場などは、公開されている情報などが全て反映されている「効率的市場」であり、その相場は常に正しい水準にあるとするもの。この場合、相場が変化するのは、新しい情報などがもたらされた場合だけとなるが、それは何時どんな形でもたらされるか全く予想できない。こうしたことから、相場の動きは誰も予測できないと結論付ける。
しかし、ランダムウォーク理論に異論を唱える人も多い。現実には株式や外国為替取引で莫大な利益を上げている人が存在しており、何らかの方法で相場の動きを予測していると考えざるを得ない。全ての市場参加者が全ての情報を共有している「効率的市場」など非現実的であり、ランダムウォーク理論も信用できないというわけだ。
お酒を飲むと千鳥足になって迷惑をかける知人だが、最近ある「疑惑」が持ち上がった。彼が千鳥足になるのは、女性がいる場合に限られていた。酔ったふりをして、女性にもたれかかっているのでは? というわけだ。お酒を飲んで千鳥足になる知人と同様に、相場の動きもランダムウォークではなく、予測の方法を知っている人だけが大儲けしているのかもしれない。