株式市場にも同じようなグループがある。「仕手集団」だ。仕手集団は巨額の資金と様々な取引手法を駆使して、株価を意のままに動かし、大きな利益を得ようとするグループのこと。株価は本来、企業業績や経済環境などを反映させた多くの投資家の売買を通じて決定されるもの。ところが、仕手集団はこうした株式市場のルールを無視し、巨額の売買を繰り返して、思いのままに株価を操ろうとする。その結果、株価はゆがめられ、株式市場のルールに従おうとする一般の投資家は翻弄(ほんろう)されて、損失を被る恐れもある。「仕手」は能で主役を意味する「シテ方」に由来するとされる言葉。株式市場という道路を、我が物顔で走り回るのが仕手集団なのだ。
仕手集団が狙うのは、発行されている株式数が少ない「小型株」が多い。また、少ない資金でより大きな売買ができ、「空売り」や「空買い」もできる信用取引が可能な銘柄や、売り攻勢が仕掛けやすい業績が悪い企業の株式なども対象になりやすい。仕手集団が暴走行為をするのは、誰もが知っている東証1部上場の有名企業の株式ではなく、東証2部やナスダック市場、東証1部でも目立たない銘柄が多くなっている。
一般投資家に少なからぬ影響を与える仕手集団だが、取り締まりは容易ではない。巨額の取引そのものは合法であり、通常の投資家と仕手集団の取引を区別することも不可能だ。
仕手集団を取り締まることができるのは、違法行為があった場合に限られる。典型的な違法行為は、金融商品取引法で禁止されている「相場操縦」だ。取引するつもりのない巨額の注文を出して市場参加者を驚かせ、その直後に取り消す「見せ玉」や「仮装売買」、ウソの情報を流して株価に影響を与える「風説の流布」などは、相場操縦にあたるとして、金融商品取引法で禁止されている。こうした違法取引が確認できた場合に限って、警察に相当する証券取引等監視委員会(SEC)が、仕手集団を告発できる。暴走族が道路を走るだけなら取り締まれないが、信号無視などの違反行為を見つけたら検挙が可能というわけだ。
2015年11月17日、東京地検特捜部は、大手仕手集団「誠備グループ」を率いた元代表の加藤あきら(=日の下に高)容疑者ら3人を、相場操縦によって株価を意図的に上昇させた金融商品取引法違反容疑で逮捕した。加藤容疑者は、バブル期に名を馳せた「伝説の相場師」で、派手な仕手取引を行ってきた。誰もが知る暴走族のリーダーが、ついに逮捕されたのだった。
株式市場のみならず、外国為替市場や商品市場など、仕手集団はあらゆる市場に存在している。一部のヘッジファンドに代表されるように、世界的規模を持つものもあり、逆らわずに、追従する投資家(「提灯(ちょうちん)」と呼ばれる)も加わって、市場全体を支配することも少なくない。仕手集団という暴走族を根絶することは不可能であり、その動きを注視し、上手に付き合うこと以外に方法はないのである。