株式市場にも二軍送りがある。「指定替え」だ。プロ野球と同様に、株式市場にもカテゴリーがあり、東京証券取引所の場合には一軍に相当する第一部(東証一部)の下に、二軍に相当する第二部(東証二部)があり、このほかに新興企業が多く属するマザーズやJASDAQ(ジャスダック)といった独立リーグのような市場がある。企業はこれらの市場に上場されてプレーする選手であり、東証一部を目指していくわけだが、反対に東証二部に降格される企業も出てくる。これが指定替えで、東京証券取引所、または名古屋証券取引所の第一部から第二部に降格される場合に使われる。第二部から第一部に昇格するときには「一部指定」、市場から別の市場へ移行するときには「市場変更」などの言葉が使われている。
プロ野球の場合、苦労して一軍に昇格しても、成績が落ちるとすぐに二軍送りになるが、指定替えは簡単には行われない。東証一部に上場されるためには、企業規模や純資産額、利益などについての厳しい基準を満たす必要があるが、指定替えの基準は、株主数や流通株式数、売買高など、株式の流動性が確保されているかどうかに焦点を当てた必要最低限のものが大半で、適用されることはほとんどない。変動の大きい企業業績に直結した基準を設けると、頻繁に指定替えが起こり、投資家に混乱をもたらす。こうしたことから、指定替えは「赤字転落」といった単純な業績悪化では行われておらず、1年に1社あるかどうかという稀な出来事となっている。
指定替えの基準で、唯一企業業績に直結しているのが「債務超過の状態になったとき」という項目だ。債務超過は企業の経営が悪化し、借金(債務)の額が保有している資産の額を上回り、会社の全財産を売り払っても借金が残る状態で、経営破綻の瀬戸際にあることを示している。ケガなどでプレーができなくなった選手が二軍送りになるわけだが、債務超過で指定替えとなった企業には、新たな試練が待ち受けている。次の決算までにこれを解消できないと自動的に上場廃止となるのだ。次のシーズンに入る前に、債務超過というケガを直せなければ解雇されるわけで、猶予期間が与えられているだけ。現実には債務超過に陥った企業の大半が、指定替え前に経営破綻して上場廃止、つまり解雇されている。
屈辱的な指定替えとなったのがシャープだ。長年、日本を代表する名選手として東証一部で輝きを放っていたが、液晶事業に失敗して債務超過に転落。2016年8月1日付で指定替えとなり、猶予期間である翌年3月31日までに債務超過を解消できなければ上場廃止となる。シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業から資金援助を受ける計画で、これによって債務超過は解消すると見られているが、その後の見通しは不透明だ。債務超過によって指定替えされた企業が、東証一部に再昇格した例は少なく、大半は経営破綻している。解雇の瀬戸際に立たされたかつての名選手が、一軍にカムバックする日は来るのか? 指定替えとなったシャープの戦いはこれからが正念場だ。