1995年に発生した阪神・淡路大震災では、多くのマンションが倒壊した。住まいや家財道具などを失った上に、住宅ローンは支払い続けなければならないという、「マイナス」からのスタートを強いられたことで、人々の生活再建の道のりは、一層厳しいものとなってしまった。
マンションの場合、建物は壊れても、共有部分の土地の価値は残る。しかし、住宅ローンの残額がそれを上回ってしまうと、全てを失った上に借金が残るという、最悪の事態となってしまうのだ。
企業における債務超過も、同じ状況と考えることができる。「債務超過」とは、経営が悪化して借金が増え、資本金を始めとする会社の資産を全て処分しても、返済しきれない状態を示す。
会社の財産の大元となるのが資本金で、株式会社の場合には株式を発行し、その売却代金が資本金となる。資本金1000万円の場合、額面50円の株式が20万株発行されるわけだ。
これを分譲マンションに置き換えてみると、総戸数20万戸の分譲マンションが、1000万円で建てられたことになる。資本金は分譲マンションの土地のように、株式の保有比率に応じて権利を持つ、大元の共有財産となるのだ。
債務超過とは、株式会社の経営が悪化、例えば借金が2000万円に膨らんで、預金などの資産はもちろん、資本金の1000万円を全て取り崩しても借金が残ってしまう状態だ。株式会社という分譲マンションが何らかの原因で損傷を受け、建物を取り壊し、さらに共有部分の土地に相当する資本金を取り崩しても借金が完済できない状況が、債務超過となるわけだ。
払いきれない借金はどうなるのか? 分譲マンションの場合は、住民が払わなければならない。ところが株式会社の場合、株主には、払いきれなかった借金の支払い義務はないのだ。
株式会社の経営が破綻した場合、その株式は紙くずとなり、株主は投資したお金を失う。分譲マンションが倒壊して、住めなくなってしまったわけで、マンション購入のために支払ったお金は戻ってこない。しかし、株主の損失はここまで。株式会社には、株式購入に使ったお金以上の損失は、株主には決して発生しないという「有限責任」の原則がある。
これこそが株式会社の根幹となる仕組みで、英語のlimited company(略してLtd)という言葉が、その本質を物語っている。この「有限責任」があることによって、株式投資が拡大し、企業の資金調達を容易にしてきたのだった。
では、返済されない借金はどうなるのか? 損失は貸し手、つまり融資を行った銀行などの金融機関や、手形などを保有している取引先が被ることとなるのだ。しかしこれでは貸し手側はたまったものではない。
そこで、債務超過に陥った企業、あるいは陥る可能性が高い企業に対しては、新たな融資が行われる可能性は極めて低くなり、融資の早期回収に発展する可能性も出てくる。つまり、債務超過となれば、その企業の資金繰りが悪化し、存続が困難になることが予想されるのだ。
もちろん、債務超過となっても、すぐに企業が破綻するわけではない。手元の資金さえあれば、事業の経営は可能であり、特別な条件で融資を受けたり、新たに株式を発行する「増資」を行って資金を調達することなどによって、再建が図られることも少なくない。
しかし、債務超過が企業経営にとって、極めて深刻な状況であることは間違いない。建物が傾き、購入してもすぐに崩壊してしまいそうなマンションなど誰も買いたくないように、債務超過に陥った企業の株価は大きく下落する。
一方、お金を貸しても返してもらえそうにない状況なら、分譲マンションの修繕費を誰も出したがらないだろう。
住宅を失った上にローンが残された人にとって、生活の再建は容易ではない。「債務超過」も同様であり、それが経営破綻に直結はしないが、企業の存続が極めて難しい状態になっていることを示すものなのである。
(2001年施行の商法改正により、額面株式は廃止され、現在は無額面株式に統一されている)”