経済政策上の方針を表明(アナウンス)するだけで、実際には何もしなくてもよいという「魔法」のような手段だが、その本質はイソップ寓話の「オオカミ少年」と同じ。羊飼いの少年が「オオカミが来たぞ!」とうそをつき、慌てて集まってきた村の大人たちに無駄足を踏ませるというお話だ。
外国為替市場を例にとってみよう。円高を阻止するために、通貨当局が円売りの市場介入に乗り出せば、円安・ドル高方向に大きく動く可能性があることから、外為ディーラーたちは、かたずをのんでその動向を見守っている。市場介入は「オオカミ」であり「市場介入をやるぞ!」というメッセージは、「オオカミが来たぞ!」という警告に他ならない。そのため、介入を示唆する発言などが出ると、「円安になる!」と為替ディーラーたちが判断して慌てて円売り・ドル買いに走る。その結果、市場介入を実施しなくても、円安・ドル高になってしまう。人々の理に訴えて、政策の効果を高めるのがアナウンスメント効果というわけだ。
しかし、コメントを出すだけで実行が伴わなければ、やがて信用されなくなり、アナウンスメント効果は薄れて行く。さらには、「コメントだけで、実際に介入しないのは、介入できないことの裏返しだ」として、円買いに安心感が広まり、円高が加速する恐れもある。使い方を誤ると、アナウンスメント効果は「逆効果」になりかねないのだ。
こうしたことから、市場介入について、「現段階では難しい…」などと否定的なコメントを出すこともある。これによって、為替ディーラーたちを安心させておいて突如介入を実施、その効果を高めようというわけだ。「オオカミは来ないよ…」と油断させておいて、突然襲いかかるというわけで、これもアナウンスメント効果の一つと言えるだろう。
最近、最も大きなアナウンスメント効果をあげたのが日本銀行だ。日銀は幾度となく金融緩和を実施してきたが効果は現れず、日銀総裁が、「金融緩和を追加実施します」と言っても、「オオカミの遠ぼえ」程度にしか受け取られていなかった。ところが、2012年2月、「インフレターゲット」を導入するかのようなコメントが出されると状況は一変した。インフレターゲットは、インフレを強制的に生み出そうとするもので、日銀が拒み続けてきた強力な金融緩和の一つ。「日銀が奥の手を使った!?」との観測から株価は急上昇、「インフレの国の通貨は売られる」との思惑から円安も進行した。「今度のオオカミはすごいぞ!」という日銀のコメントが、大きなアナウンスメント効果を生んだのだった。
しかし、日銀が本当にインフレターゲットを導入するのかどうか明確ではなく、結果的に期待外れに終わったときの反動も大きくなる。アナウンスメント効果を高めるためには、「オオカミが来た!」と安易に叫ぶのではなく、本当に強いオオカミを連れてくることが必要なのである。