「フィンテック」は、FinanceとTechnologyを合体させた造語で、最先端のIT技術やビッグデータ、人工知能などを取り入れることで生み出される新たな金融サービスの総称だ。
フィンテックには多種多様なものがある。パソコンやスマートフォンを使った決済システム、家計の自動管理システム、人工知能を使った資産運用システムや、ビットコインに代表される仮想通貨もフィンテックの一例だ。また、融資業務についても、貸し手と借り手を仲介する「ソーシャルレンディング」が登場していて、銀行の存在意義を根本から変える可能性を秘めている。フィンテックは伝統的な金融業とは別次元の能力を持ち、既存の金融機関を脅かしつつある。
金融業務全般に参入の余地があるフィンテックだが、最大の特徴が、金融業界とは無関係の企業によって展開されている点にある。フィンテックの先駆的な存在とされているのが「ペイパル」、従来の銀行間送金に代わるオンライン決済システムで、安い手数料と安全性、取り扱いの容易さから、世界中で使われるようになった。開発したのは金融業とは無縁のベンチャー企業で、グーグルやフェイスブックといった巨大IT企業もフィンテックで大規模なビジネスを展開している。囲碁とは無関係のグーグル関連企業がアルファ碁を開発したように、フィンテックも金融業界とは縁遠い企業によって発展しているのだ。
そもそも金融業界は、閉鎖的で独占的、新規参入が容易に行われない業種だった。その結果、銀行の窓口は午後3時に閉まり、利息よりはるかに高い手数料を支払うなど、利用者には不便な状況が平然と続けられてきた。限られたプロ棋士の間で戦いが行われている囲碁界のように、金融業界も既存の金融機関だけで成り立っていた。そこに殴り込みをかけてきたのがフィンテックという新人であり、その実力の高さに危機感が高まっている。
コンサルティング会社のマッキンゼーは2015年のレポートで、今後の10年間で、既存銀行の利益の6割がフィンテックに奪われるとしている。フィンテックの存在を無視できなくなった金融業界は、フィンテックを展開する企業を買収したり、提携したりするなどの対応を取り始めている。プロ棋士が対局中に、アルファ碁から次の一手を教えてもらうようなものだが、このままでは、仕事を奪われるのは確実な情勢だ。
フィンテックの参入で、大変革を迫られている金融業界。今後、さらに熾烈な競争が展開されることになるが、利用者にとっては、より革新的な金融サービスを受けることが期待できる。金融業界で始まった、既存の金融機関と新人のフィンテックの白熱した対局は、これを見ている利用者に大きな恩恵をもたらしてくれるに違いない。