奨学金の返済と滞納が社会問題化している。奨学金は経済的余裕のない学生を一時的に救うもので、卒業後に返済義務があるものが大半だ。ところが、卒業しても思うような収入が得られなくても、奨学金の回収が進められる結果、利用者が追い詰められてしまうのだ。
アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)も「奨学金」の回収に動きだした。2017年9月20日、FRBは「資産縮小」を始めると発表した。08年のリーマン・ショックに伴う金融危機を乗り越えるために、FRBは大量の資金供給(量的金融緩和策)を行ってきた。危機に直面したアメリカ経済という「学生」に、「奨学金」を提供することで援助した。
資産縮小は量的金融緩和策で供給された資金の回収を意味する。量的金融緩和策は、国債や不動産担保証券などの「資産」を購入し、その代金を支払う方法で実施される。この結果、リーマン・ショック直前に約9000億ドルだったFRBの保有資産額は、約4兆5000億ドルと5倍になる。FRBの保有資産額急増は、巨額の奨学金を提供してきた結果だが、経済の回復傾向が鮮明になってきたことから方針を転換する。これが資産縮小で、従来とは逆に保有資産を売却して資金を回収する。アメリカ経済は危機を脱し、お金に余裕が出てきたので、奨学金を回収するというわけだ。
FRBが資産縮小を始めた理由は、景気回復だけではない。史上最高値を更新し続けているダウ平均株価、商品や不動産価格の上昇など、アメリカ経済にはバブルの兆候が表れているが、その原因が大量供給された資金流入と考えられている。奨学金が投機資金に化け、バブルという「宴会」の資金源になっていることも、資産縮小の一因なのである。
しかし、資産縮小は経済に大きな影響を与える。資産縮小によって、これまでとは反対に保有している国債などが大量売却されると金利が上昇、景気にダメージを与える恐れがある。また、供給された資金の一部は、新興国へ流れている。アメリカ経済に提供された奨学金が、新興国に「又貸し」されているのだ。したがって、資産縮小が進められると、まだ奨学金が必要な新興国までも返済を迫られて景気が悪化、これが世界経済全体に悪影響を与える恐れもある。
こうしたことからFRBは、慎重に資産縮小を進めるとしているが、その一方で奨学金を増やし続けているのが日本銀行だ。黒田東彦総裁の下、13年4月からスタートさせた大量の資金供給(「異次元の金融緩和」)の結果、164兆円だった日銀の資産総額は500兆円を突破(17年5月末)し、なおも増え続けている。しかし、経済の本格的な回復には程遠く、資産縮小で奨学金を回収するなど考えられない状況だ。
資産縮小と訳されているが、英語では「バランスシートの正常化」(the balance sheet normalization)だ。量的金融緩和は危機対応のための緊急措置であり、危機が去ったので正常化するというわけだが、タイミングを間違えると、これまでの努力が水泡に帰す。奨学金の回収で経済が悲鳴をあげないように、FRBは慎重な対応を続けることになるだろう。
資産縮小(FRB)
[the balance sheet normalization]