雨宮 だから、〈セクシー個室ヨガ〉の報道があった時に、あの文科大臣もたぶん同じようにキョトンとした感じで通っていたのではないかと。個室ヨガで1対1だけど、ヨガやってるだけですよ~と言い訳している感じが、なんかもやもやするというか。
田房 その〈密着型理髪店〉で働く女の子に聞いたんだけど、そこは男性の経営者がキャバクラや理髪店から女の子を引き抜いてきて作ったお店でした。「3倍の給料を払います」という感じで。だから理髪師とキャバクラ出身の人の区別が、見ただけではっきりと分かるくらいなんです。私のことを担当してくれた女の子は、理髪師でハサミとかカミソリが持てるんだけど、それでもミニスカートにサイズ小さめのワイシャツは着なきゃいけない。その子は「お給料はいいけど、つらい……」って感じでした。
でも、その〈セクシー個室ヨガ〉は女性が経営してるんですよね。そこは、〈密着型理髪店〉とはちょっと違うのかな?
雨宮 〈密着型理髪店〉も〈セクシー個室ヨガ〉も、フーゾクでもないしキャバクラでもない。それはその通りだと思います。ただ、一方でね、本来提供しているサービスに加えて、女の子とLINEでメッセージ交換とかできますよ、といったことを売りにする場合がある。それで、お客からのストーカー被害に遭った場合は、店は責任を負わない、労働者として守られていない。なんか曖昧にして、「そういう種類のサービスではないですよ」としらばっくれて、結局働く女性が大きなリスクを負う可能性が高い。そういう曖昧なグレーの部分が際限なく広がって、全部女性の自己責任になるんですよ。風営法に取り締まられないような、水商売とも性産業とも言えないところが、危ないと思いませんか?
北原 風営法によるフーゾク産業でも、基本的には女性の自己責任とされているんですよね。いわゆる「本番」と言われている性交は、自由恋愛の範囲でどうぞ、として運営されている。どんな所でも、男は、「デリヘルって、ただのマッサージじゃないんですか、キョトン? え、ソープランドってお風呂屋さんだよね? なのにセックスできるの? キョトン?」という、建前と本音、ダブルスタンダードで、女をすごく上手に搾取している。でも、基本的に最終的に何かあった時には、全て責任を取らされるのは男じゃなくて女なの。
雨宮 今のフーゾクも「キョトン」ですよね。ソープランドもね、そんなつもりじゃなかったみたいにね、言えちゃいますもんね、男性はね。
北原 (日本の社会は)どこまでも男の人に甘い、性に関して甘いよね。だけど、男の人もこれでほんとうに幸福なんですか? こんな文化でいいんですか? って聞きたいの。さっきの話に戻ると、大臣が公用車で〈セクシー個室ヨガ〉に行くわけでしょ。 そんな人が大臣でいいんですか。
田房 虚がすごいよね。
北原 虚がすごい。あまりにも空、ほんとに。
*「この国で、女子でいることはかなりしんどい。その2」につづく。
「オトナの保健室」コーナーの漫画
朝日新聞夕刊2018年4月17日「オトナの保健室」掲載。
「言っても言っても全然ワカンナイ人たちって 女の人は『女である』という点しか価値がないと思って」いる。そんなオジサンたちは、「女のことは人間と思ってない」ばかりでなく、「実は彼ら自身が自分のことを人間扱いしてない」「性別とか年齢とかの『入れ物』に沿って生きる、それが人生だと思ってる」と、田房さんは分析した。

『男しか行けない場所に女が行ってきました』
田房永子著。2015年 イースト・プレス刊

『男が痴漢になる理由』
斉藤章佳著。2017年 イースト・プレス刊

『日本のフェミニズム』
責任編集 北原みのり。2018年 河出書房新社
