研究班のメンバーでネットやゲーム依存症外来を開設している精神科医の樋口進氏は、「ネット依存が強いと昼夜が逆転し睡眠障害などにつながる恐れがあり、精神面への悪影響も懸念される」(東京新聞8月2日付)と心身に深刻な問題が起きていることを指摘している。そして、ネット依存症を防ぐためには、「適切な使い方に関する教育」とともに、「相談や診療ができる体制」も速やかに整えるべきと強調する。つまり、子どもの「ネットやオンラインゲームのやりすぎ」はもはや“気の持ちよう”のレベルを超えて、「治療が必要な病気」になっている可能性がある、ということだ。
この調査では、「ネットを使う時間がだんだん長くなっていった」「やめようと思ったがうまくいかなかった」「ネットが原因で人間関係が危うくなったことがある」「現実から逃げるためにネットを使うことがある」といった八つの質問で「はい」が五つ以上あった場合を「病的な使用」とみなしている。つまり、「どんどん長時間に」「現実よりネットを優先」といった使い方は健全ではない、ということだ。
しかし、考えてみれば、これはネットに限ったことではないし、子どもだけの問題でもない。スマートフォンつまりスマホの使用じたいがそうなりつつあるとも言えるし、ネットのショッピングサイトや現実の世界のファストフード、コンビニなど、「より使う頻度が増えた」「これなしでは生きられない」と思う人たちによって支えられているビジネスもたくさんある。
アメリカのアップル社のシニアマネージャーだった松井博氏が著した『企業が「帝国化」する』には、“帝国”と言えるほど巨大化するアメリカ企業の条件のひとつとして、「顧客をガッチリと自らの『仕組み』の中に取り込み、顧客側が『帝国』に依存し続けるしかないような構造を創り上げる」ことがあげられている。「一度使いだすと、これを持つ以前は一体どのように生活していたのか思い出せなくなるほど依存性の高い製品」を生み出すことができる企業だけが、“帝国”として急成長することができるというのだ。ビジネスの側から見れば、「依存を引き起こす」というのは間違いなく成功の証なのだろう。松井氏はそれを「餌付けの仕組み」とも呼んでいる。
だとすれば、「子どものネット依存症」の対策は、単に子ども側に「教育」や「医療」を施せばよい、ということにはならない。この新しい問題の本質にあるのは、「『餌付けの仕組み』を作ってユーザーを依存症にするビジネスモデル」なのだ。それに手をつけなければ、問題の解決はありえない。
一方では成長戦略の名のもと、企業などに「もっとユーザーを“餌付け”して“依存症”に」と推奨し、一方では「子どものネット依存は深刻。早く対策を」と警告を発するというのは、まったく矛盾した話だ。極端なことを言えば、「依存させるビジネスをやめるか、さもなくばネット依存も容認するか」という二者択一しかない、と私は考えている。
ネット依存の問題の本質は、「子どもがネットばかりしていて勉強しない」ことにあるのではなく、すべての人を依存に追い込み、利潤をあげようとする企業社会の側にある。このことをぜひ考えてみてほしい。