石田 純文学ってそもそもマニアックなんですよ。でも、マニアックに書いていいジャンルに縛りがあって、純文学が好きな人にしか開かれてないんですよ。たとえば、過去の文学作品をマニアックに引用したりするのはOKで、「ここは島崎藤村の一文からやで~」みたいな(笑)。私に素養がないのがいけないんだけど、「誰も知らねぇよ! そんなの知ってんの日本で5人ぐらいしかいねぇだろ!」 っていつも思う。でもそういうマニアックさは許される。
あと、映画とかジャズとかもOK。純文学が好きな人が好きそうなジャンルは大丈夫なんです。でも、たとえば私が工事現場のおっさんのことをマニアックに書いても、それはあんまり許さない(笑)。私からするとマニアックレベルはどちらも同じだと思うんですが。
「自由」と言いつつ、実際はすごいテーマを選ぶ気がするんです。純文学のテーマってどうせ「恋愛」、「不倫」、「セックス」なんだろって、やさぐれた気持ちになるんです。
鴻池 すいません……。そんなのばっかり書いています。
石田 いやいや(笑)。鴻池さんの作品のことじゃない! でも、だから鴻池さんの作品は純文学だなと感じますし、すごく純文学業界でウケてるでしょう?
鴻池 ウケてない! 全然俺ウケてないんだよ。Twitter(現X)のフォロワー10人くらいにしかウケない。作品が純文学らしいとも言われたことない。
石田 そうかな。食事中に申し訳ないですけど、純文学の作品って「僕のペニスが~」みたいな話多くないですか。
鴻池 それも書いたかも。
石田 いやいや(笑)。だから鴻池さんの作品のことじゃないですよ。
鴻池 まぁ、純文学の作家も編集者もスケベな奴ばっかですからね。
石田 私は人はそんなにいつも「性」のことばかり考えて生きてないだろうと思うんです。仕事のことばかり考えて生きている人だって世の中にはいると思うんですよ。でも、仕事のことばかり考えている人は「人間らしくない」と思われる。だから純文学の登場人物には向かない。
鴻池 ムラムラしている情けない人のほうが可愛いんですよね。単純に可愛いから書きたくなる。
石田 それはわかります。ムラムラしてる人のほうが「人間らしい」と私もちょっと思うんです。
鴻池 いま仕事で、漫画の編集に関わっているんだけど、漫画のほうが登場人物のキャラクターに肉付けするために、編集者がいろんな質問を作者にする場合は多いかも。
石田 そうなんですね。
鴻池 たとえば、「この主人公はどういう女の子が好きなの?」とか「初恋は何歳だったの?」とか。小説で編集者が「性」のことを書かせようとするのも、そのキャラクターを掘り下げるためのひとつの手なんだと思うんですよ。俺も編集者だったら色々、作者にリクエスト出しちゃうかも。
石田 そうですね。私も編集者だったら「この主人公に家族はいるの?」とか「この主人公は休日に何をしてるの?」とか、作家に聞いちゃうと思います。ただ、「人間を人間らしく書く」ためのパターンが純文学業界である程度決まってるんじゃないかなぁと。じゃあそこはお前が頑張れというところですが、全然、自由じゃねーなって。ヤバいな……。今日はただの純文学の悪口を言う会になりそう(笑)。
鴻池 悪口大会にしましょう。いつもは僕のほうが悪口多いので(笑)。今日は、石田さんも言ってくれそうなので気が楽です。
小説に書かれたことはどこまで本当なの?
石田 鴻池さんの「フェミニストのままじゃいられない」、面白かったです。
鴻池 ああ……。
石田 あれ? 急にテンションが下がった。過去作に触れられるの嫌いですか(笑)。
鴻池 僕の作品は読まなくていいんですよ。この企画は、ゲストの方に楽しくお食事して帰ってもらうだけでいいんです。自分の作品のこと言われるの恥ずかしい……。
石田 いや、私だって恥ずかしいですよ! 鴻池さんの作品はいきなり話が始まるのがいいですよね。前置き一切なし。イントロの短い曲みたいで好きです。
鴻池 確かにいきなり話、始めちゃいますね。
石田 全部読みましたよ。
鴻池 マジか! 嬉しいです。
石田 鴻池さんの作品が純文学らしいと思う、もうひとつの理由は、「私小説」のパロディというか……。やっぱり「純文学=私小説」というイメージが強いじゃないですか。そこを逆手に取ってるのか、一周回って本当なのか? みたいに思わせる作品だと思ったんです。鴻池さんの特に「わがままロマンサー」とか実際、鴻池さんと思しき小説家が主人公で、どこまで本当なのかなって。「わがままロマンサー」だと、主人公の奥さんはBL(ボーイズラブ)漫画家ですけど、本当にそうなんですか?
鴻池 漫画家ではないです。BL研究家というか、ただの「腐女子」です。
石田 そうなんですね!
鴻池 うちのカミさんが、BL好きなので、僕が書いたどの作品もBLっぽい要素が入ってくるんですよね。
石田 奥さんは鴻池さんの作品読まれるんですか?