第5回目のゲストは、2021年「我が友、スミス」で「第45回すばる文学賞」佳作となりデビューした石田夏穂さん。ボディ・ビル大会、会社の新卒採用担当、溶接工など、様々なテーマをユーモア交えた文体で描き、いま最も注目される新鋭は「純文学」をどう定義しているのか? 「純文学」に対する不満が爆発するなど……。熱い議論が交わされる!
純文学には締切がない?
鴻池 明日、芥川賞の発表ですね(収録日7月18日)。今回、「我が手の太陽」が候補に選ばれましたけど、心境はどうですか? って聞かれても困りますね。
石田 ええ、言っても当日やることないじゃないですか。ただ結果待っているだけですからね。
鴻池 発表前日に呼び出してすいません。
石田 いえいえ、そんなことより、今日のテーマの「純文学とは何か?」っていうのを考えてきたんですよ。一つわかりましたよ。
鴻池 あっ、ほんとですか! 教えてください。
石田 純文学の一つの特徴は、ずばり〝締切がない〟ことですよ。
鴻池 なるほど!
石田 前にエンタメ系の作品を担当されている編集者さんと話す機会があったんです。そのとき、「石田さんいま何書いてますか?」って聞かれて、「こういうのを書いてます」って答えたら、「それはいつ終わりますか?」って。いつ終わるか考えてなかったから「いや、わかんないです。こっちが知りたいです」と言ったら、「えっ、なんでわからないんですか? 締切はどうなってるんですか?」とその編集者さんがびっくりしてたんです。
鴻池 確かに純文学には締切は厳密にはないかもですね。作品できたら見せてという感じかも。
石田 その編集者さんいわく、エンタメのほうだと、何月までに完成させて、修正をこれぐらいの期間で終わらせて、何日までに掲載するみたいにスケジュールが厳密なんだとおっしゃっていました。だから、純文学とは締切がない作品のことを言うと思ったんです。
鴻池 おっしゃる通りだと思うんですけど、ただそれは仕組みというのか、外側の話じゃないですか? 中身としてはどうですかね?
石田 そうか。うーん……。どのジャンルにも属さないのが純文学なんじゃないですかね。ミステリーでも、SFでもないみたいな。
鴻池 そうですね。それは前に対談した松波太郎さんもおっしゃってました。
石田 あっダメだ。パクリになっちゃう。他になんだろう……。
鴻池 いやいや(笑)。でもそういうことなんでしょうね。どのジャンルにも属さないというのが一つの特徴だと思います。
石田 何が〝純〟なんですかね?
鴻池 うん(笑)。そう思ったんで、色んな作家に教えてもらいたくてこの対談やってるんです。石田さんは、「すばる文学賞」という純文学の新人賞でデビューされたじゃないですか。元々、純文学の賞に応募してたんですか?
石田 いや、私はミステリーの新人賞「江戸川乱歩賞」に応募してましたね。実はミステリー作家になりたかったんです。
鴻池 へー、そうなんですか。確かに石田さんの文章って理路整然としているし、ミステリーの雰囲気ありますね。
石田 いや、でもミステリーの賞は全然ダメでしたけどね。鴻池さんはずっと純文学の新人賞に応募されていたんですか?
鴻池 ええ、なんか自由そうだったんです。どこかテーマとか縛りがない自由さがあるんだと思う。さっきの締切がないというのも、自由という意味では同じことかも。
石田 新人賞の応募の話で言えば、たとえば、集英社だったら純文学の雑誌『すばる』の新人賞、エンタメ系の雑誌『小説すばる』の新人賞、どちらに送ればいいのか悩むという問題があると思うんです。私はそこの違いがイマイチわからなかった。いまだにわかんないかも。
鴻池 読者としては純文学も、エンタメもどっちも読む感じですか?
石田 いや、どっちもあんまり読まないです。
鴻池 えっ、どっちも読まないの?
石田 これマズいのか……。『すばる』はさすがに読む(笑)。
鴻池 そうか(笑)。応募していたのはミステリーの新人賞が多かったんですか?