ところが、この当たり前の配慮について、対応の方向がなかなかまとまりません。政府の腰が実に重いですよね。言うに事欠いて、税率が複数あるのは面倒臭い、などという驚くべき暴言も、飛び出す始末です。なぜ、政治はここまで軽減税率を嫌がるのでしょうか。
大きな理由が、中小企業への経理事務負担増にあるのだと言われます。確かに、この問題はあるでしょう。ですが、この問題が発生するのも、実を言えば、日本の消費課税の在り方そのものに、当初から不備があったからです。消費税率を二桁にもっていこうかというこの段階で、そろそろ、まともな方向に向けて、制度そのものを再設計した方がいいと筆者は思います。
そもそも、日本の消費税は「浅く広く」の発想で造り上げられました。1989年の当初導入時には、税率は3%でしたよね。税率は低く抑える。だから、幅広く一律に課税する。この基本思想に基づいて、日本の消費税制度は発足したのです。
税率が一律であることを前提にして、中小企業向けにいわゆる「簡易課税方式」も作られました。この方式によれば、企業は仕入れ商品に関して個別インボイス(仕入れ伝票)を保管・整理して、納税額を正確に算出する必要がありません。一定の「みなし仕入率」を使って消費税の既納税額を「推計」し、その分を最終消費者からの消費税の「預かり分」から差し引けばいいのです。
ところが、軽減税率の導入で仕入れ商品に掛かる税率が多様化してくると、これでは通用しなくなってきます。きちんと実際の仕入れ状況を管理して、それに対応した納税額を集計する必要が生じてきます。このための経理事務負担が、中小企業にとっては大変なのだというわけです。
そこで、仕入れに占める軽減税率適用品目についても、これまた「みなし比率」を業種別に決めてしまえ、という案が、ここにきて浮上してきました。「みなし」の上にまた「みなし」を重ねるということです。
これは、いかにもいい加減過ぎるでしょう。「浅く広く」が限界に達したなら、「深く狭く」に向けて、しっかり制度設計を見直すのがまともなやり方だと思います。
ただでさえ、厳しい環境におかれている中小企業への配慮は必要だとは思います。
ですが、だからといって、そのために、「みなし」の屋上にまた屋を重ねるというのは、どうも筋違いに思えてなりません。もう少し、まともにまじめに知恵を絞って欲しいものです。