自分には関係ない。だから、別にどっちでもいい。どうでもいい。そう思っていたら、実は大いに関係があって、大いにどっちでもよくはなかった。世の中、こういうことが結構あります。
そのような観点から、今、気に留めておきたいテーマが三つあります。その一が、日本の厚生労働省による統計作成上のルール違反問題。その二がイギリスのEU離脱問題。その三がアメリカのドナルド・トランプ大統領が欲しがっているメキシコとの間の壁問題です。
厚労省は、「毎月勤労統計」という統計の取りまとめに当たって、定められた調査方法をきちんと踏襲していませんでした。従業員500人以上の事業所は、全て調査対象にする。これがルールです。それなのに、東京都に関しては対象1400事業所のうち、3分の1についてしか調査を実施していなかったのです。
とんでもないやつらだ。真面目に仕事しろよ。そう思われつつも、そうはいっても、自分にはあまり関係ないな。経済統計なんて、見る機会もないし、自分の日常生活とは、一切関わり合いがない。「毎月勤労統計」なんて、そもそも、今まで聞いたことなかったし。こんな風に反応された方々も、少なくなかったかと推察します。
それは誠にごもっとも。ですが、実はこの通称「毎勤」と呼ばれる統計は、我々の日常と決して無縁なものではありません。
まずは、雇用保険や労災保険の給付額が、「毎勤」統計から計算した平均給与額にスライドして変動します。労働組合が春闘賃上げ率の要求水準を決めるに当たっても、「毎勤」が示す賃金データの推移が重要な決定要因の一つです。政府にせよ民間予測機関にせよ、経済予測を行う際には、必ず「毎勤」を頼りにします。そのようにしてまとまった経済予測が、経営判断への影響を通じて、企業の採用行動や給与水準を規定します。「毎勤」、侮るべからずです。
イギリスのEU離脱問題は、イギリスの国民にとって大きな関心事です。ですが、彼らも、観念的な関心こそ強いものの、どこまで、この問題を自分たちの日常生活との関わりで意識してきたかは疑問です。EU離脱すなわち通称「ブレクジット」があろうとなかろうと、別にお天道様が照らなくなるわけじゃなし。とりあえず、明日はまたやってくる。そんな感じで受け止めてきた人々は少なくないでしょう。
ですが、その日が近づくにつれて、少々、様子が変わってきました。イギリスがEU加盟国である限り、物についても人についても、その出入りについての国境チェックはありません。ところが、ブレクジット実現ともなれば、突如として出入国管理が蘇る。そのおかげの物流の停滞や人が足止めを食うという問題が発生する恐れが濃厚です。医薬品不足が発生するかも。生活必需品がコンビニの棚から消えるかも。そんな懸念が次第に広がっています。物資の買いだめ行為もそろそろ起こり始めているようです。
メキシコとの間に壁が出来ようが出来まいが、自分の生活に直接的な影響はない。多くのアメリカ庶民がそう考えていたかもしれません。
ところが、トランプ親爺さんの「壁のためにカネよこせ」要求を民主党が多数を占める議会下院がはねつけている。この睨み合いのおかげで、行政機能を継続するためのカネの動きも止まってしまった。おかげで、婚姻届けが出せない人々がいたり、給与が支給されないので、家賃が払えなくなる公務員が出てきたりしています。
このような具合で、一見、「とりあえず関係なし」と思われる出来事も、巡り巡って、自分たちの日常に実に直接的な形で重く重くのしかかってくる。経済の世界にはこういうことがありがちです。どうか、皆さんご注意を。