歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
石川五右衛門(いしかわごえもん)
実在の大泥棒がモデル。浅葱幕(あさぎまく)が切って落とされると京都南禅寺の山門で、豪華絢爛の舞台に「絶景かな、絶景かな」の声が響き渡る。そこへ絶命寸前の実父の遺書を鷹が運び来て、実父、養父とも敵と恨む真柴久吉(羽柴秀吉)を討つべく立ち上がる。大道具の仕掛が圧巻。釜煎り刑となったインパクトが、のちに五右衛門風呂を生む。『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』(1778年初演)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
幡隋長兵衛(ばんずいちょうべえ)
江戸初期に実在した侠客(きょうかく)で男の中の男。鈴ヶ森でチンピラを片づける美少年、白井権八(ごんぱち)の腕に惚れ込み、以後面倒を見る懐の深さ。『鈴ヶ森(すずがもり)』(1823年初演)。けんかの仲裁をしたため旗本から逆恨みされ、呼び出された屋敷の湯殿(風呂場)で襲撃される。死を覚悟して出向く姿も潔い。『極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)』(1881年初演)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
梅川・忠兵衛(うめかわ・ちゅうべえ)
飛脚屋の養子忠兵衛と大阪の遊女梅川。身請けの金の算段に行き詰まり、ライバル八右衛門にもコケにされ、カーッとなって思わず公金三百両の封印(小判の紙帯)を切ってしまったついてない男。死を決した二人は、雪夜をそろいの黒紋付きで心中へ。片岡仁左衛門・坂東玉三郎コンビのしおれた風情が美しい。『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)』(1796年初演)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
名古屋山三(なごやさんざ)
実在の人物。美男の象徴。新吉原仲の町を歩いていると浪人、不破伴左衛門(ふわばんざえもん)の刀と自分の刀が触れ合う。侍にとっては面目にかかわる問題。にらみ合う二人を止めたのは、不破とは客、山三とは恋人関係にある傾城(けいせい)の葛城(かつらぎ)。一人を巡り対立する「恋の鞘(さや)当て」はここから出た言葉。『浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)』(1823年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】