歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
お軽・勘平(おかる・かんぺい)
塩冶判官(えんやはんがん)家臣、早野勘平と腰元お軽。主君刃傷の際にデート中だったのが悲運の始まり。勘平は悔やんで死のうとするが、お軽に「仇討ちに参加して」と尻を叩かれる。お軽が遊廓に身を売り健気に尽くしても、ふとした誤解から追いつめられた勘平は切腹。実在の萱野三平がモデルだが、お軽はフィクション。『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』(1748年初演)。
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大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)
ご存じ赤穂(あこう)浪士の大石内蔵助(おおいしくらのすけ)、義士四十七士の旗頭。主君の敵、高師直(こうのもろなお)への恨みをふつふつとたぎらせつつ、遊興三昧(ざんまい)で昼行灯(あんどん)の名に甘んじる。そうして敵の目をあざむくといった、実は思慮深い優れた戦略家。作戦本部を祇園一力茶屋(いちりきぢゃや)に置き策を練る。初世松本白鸚は代表的な由良之助役者。『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』(1748年初演)。
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斧定九郎(おのさだくろう)
ニヒルな悪人。大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)と敵対する斧九太夫の放埒息子。人を殺して金を奪い、闇の中一人ほくそ笑むが、そこは因果応報、猪と間違えられ鉄砲で打たれて命を落とす。元はむさい姿だったのを、現今のような白塗り、黒紋付きのすっきりとした悪人に作り変えたのは初世中村仲蔵。短い出番の割に印象的な役。『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』(1748年初演)。
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民谷伊右衛門(たみやいえもん)
巷間で有名なお岩の夫。赤穂(あこう)浪人でありながら、主君の仇討ちなど念頭にない無頼の徒。公金横領、義父殺害、忠僕リンチ殺人の犯行を重ね、さらにその悪性は、女房お岩の酷い死や、欲絡みで再婚した先の御家滅亡をも引き起こす。毒薬で醜く変貌して死ぬお岩の強烈な霊力に苦しめられるのは自業自得か。『東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)』(1825年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】